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著作権法20条の解説( 5/12)

(1999.4作成)

「改変」と「翻案」等
1 意に反して「改変」を受けない権利である同一性保持権の内容について判示した最高裁判例として、最二判平成10年7月17日判時1651号56頁等<本多記者反論権事件上告審判決>がある。同判決は、「著作権法二〇条に規定する著作者が著作物の同一性を保持する権利(以下「同一性保持権」という。)を侵害する行為とは、他人の著作物における表現形式上の本質的な特徴を維持しつつその外面的な表現形式に改変を加える行為をいい、他人の著作物を素材として利用しても、その表現形式上の本質的な特徴を感得させないような態様においてこれを利用する行為は、原著作物の同一性保持権を侵害しないと解すべきである」として、最三判昭和55年3月28日民集34巻3号244頁等<マッド・アマノ事件第1次上告審判決>を援用している。
2 ところで、27条は「著作者は、その著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案する権利を専有する。」とし、著作財産権として、翻訳権、翻案権等を定めている(「その他」が並列を示すので、翻訳、編曲、変形、脚色、映画化、翻案を総称して、翻案等と呼び、翻案等をする権利を翻案権等と呼ぶことにする。)。
 著作者人格権における「改変」と著作財産権における「翻案等」とは、概念としてどういう関係に立つのか(両者は厳密に区別できて排他的なのか、重なる部分があるのかなど)が問題となる。
3 立法担当者の説明によれば、「翻案等」は、原著作物において表現された著作物の「内面形式」(ストーリー性、基本的モチーフなど著作物のエッセンスを指す内面的表現形式)を維持しつつ、著作物の「外面形式」(具体的文章表現など外面的表現形式)を変更するものとされている(加戸132頁)。そして、「外面形式」の変更は翻案等に伴う必然的な改変であり、翻案等を認める以上は当然のことであるから、20条では規定しなかったとされる。つまり、「著作物の本質に触れるような改変」は同一性保持権の問題であるが、「原作の本質に触れない細部にわたる問題」については同一性保持権の内容にはならないとされている(加戸133頁)。
 しかし、前述のように最高裁判例は「他人の著作物における表現形式上の本質的な特徴を維持しつつその外面的な表現形式に改変を加える行為」を同一性保持権の侵害行為と解しており、また、多くの下級審判例も「原作の本質に触れない細部にわたる問題」についても同一性保持権の内容としていると思われ、判例は立法担当者の上記のような説明に従っていないと言うことができる。
 原告が同一性保持権と翻案権等の一方又は両方の侵害を主張したときに、裁判実務上は両方の権利の及ぶ範囲を排他的なものと解することなく、それぞれの権利について判断することになると思われる。なお、「同一性保持権と改作利用権は同一人に帰属するかぎり常に運命をともにし、単独で機能することはない」という仮説を示したが、判例はその仮説と違った動きを示しているように窺われるという指摘(半田正夫『転機にさしかかった著作権制度』173頁など)がある。
 したがって、20条の「改変」と27条の「翻案等」が全くカテゴリーを異にする(両者の範囲が全く重ならない)と解するのではなく、重なる部分があるものと解すべきであろう(改変と翻案等との間で重なる部分があるとするものとして、松田政行「著作者人格権とその周辺」コピライト1996年12月号2頁)。
4 なお、上記立法担当者の説明は、翻案等を認めた以上は「外面形式」の変更を認めざるをえないことを根拠とするが、著作者人格権としての同一性保持権は著作財産権を譲渡した後も著作者のもとに残るものである。つまり、著作財産権を有していて翻案等を許諾する者が著作者人格権を有する著作者ではない場合があるのである。したがって、著作財産権者による翻案等の許諾自体を根拠にして、それに伴う「外面形式」の変更が概念的に「改変」に該当しないとすることには無理があろう。
5 まず、【同一性保持権及び翻案権等を有する者が同一の場合】については、翻案等を許諾した著作者は、その意思により翻案等に必然的に伴う変更を認めたのであるから、翻案等による変更は「意に反する」改変ではないと解するべきであろう。
 翻案等の許諾がないときは、多くの裁判例のとおり同一性保持権の侵害と翻案権等の侵害の両方が認められることになろう。
6 次に、【同一性保持権を有する者と翻案権等を有する者が異なる場合】については、翻案権等を譲渡した著作者は、その意思によって翻案等に必然的に伴う変更を許諾する権利を譲渡したのであるから、翻案等による変更は「意に反する」改変ではないと解すべきであろう(例えば、小説家から脚色と上演の許諾を受けた場合に、その許諾は演劇化するにあたっての必要最小限度の著作物の変更に同意を与えたものと解すべきであり、著作者は同一性保持権の侵害の主張をないしえないとするものとして、半田・概説146頁が、「二次的著作物を創作する場合には、事の性質上著作物に変更を加えることが当然の全体となっているので、二次的著作物として適法に成立する以上は(例えば翻案権を取得し、もしくはその許諾を受けた場合)、原則として同一性保持権の侵害にならないと考えられる。」とするものに、三山・詳説51頁がある。)。
 この場合も、翻案等の許諾がないときは、同一性保持権の侵害と翻案権等の侵害の両方が認められることになろう。
7 翻案権等の移転が強制執行のように著作者の意思に基づかない場合は、著作者の「意」を根拠にすることができない。
 このようなことなども根拠にして、田村・概説357頁以下は「そもそも翻案に必要な限度での改変に対しては、同一性保持権は及ばないと解することがもっとも合理的であるように思われる」としつつ、「条文上の根拠も明確な20条2項を利用する処理の仕方が穏当であろう」とする。
 翻案権等に基づかない場合に同一性保持権の侵害と翻案権等の侵害の両方を認めて差し支えないこと、「改変」と「翻案等」との概念的な区別に無理があることなどを踏まえるならば、翻案権等に基づく「改変」は20条2項4号に該当するという解釈は妥当と思われる。
8 ところで、著作財産権と著作者人格権は全く別個の権利であり、1個の行為によって著作財産権と著作者人格権が侵害された場合でも、それぞれによる精神的損害は両立しう得るものであり、両方についての損害賠償請求がされているときは訴訟物を異にする2個の請求が併合されているものであるから、それぞれ個別に慰謝料額を請求しなければならないとされている(最二判昭和61年5月30日民集40巻4号725頁等<マッド・アマノ事件第2次上告審判決>)。
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