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杉並区・住基ネット訴訟 控訴理由書から(3/9) 本人確認情報の要保護性



 第3 自己情報コントロール権と本人確認情報

 1 本人確認情報の要保護性

  (1)原判決は,「住基法30条の5第1項及び2項により,市町村長から都道府県知事に送信される本人確認情報は,氏名,生年月日,性別,住所及び当該市町村において住所を定めた日,住民票コード,住民票の記載等を行った場合のその記載等の事由である。そして,上記の事項のうち,氏名,生年月日,性別及び住所については,従前から,原則として,何人も,閲覧や交付を求めることが可能であった(住基法11条1項,12条)こともあり,これらの情報については,完全に秘匿される必要性が高いものであるとまでいうことはできないのである。また,住基法7条13号によると,住民票コードは,住民票の記載事項であるにすぎず,行政機関からの住民に対する呼称として,氏名等に代わり用いられるというものでもないのであって,私生活上重要なものということはできないものである。その他の情報についても,必ずしも,私生活上重要であり,完全に秘匿される必要性が高いものであるとまではいえないのである。」(81〜82頁)としている。
 しかし,そもそも「完全に秘匿される必要性が高いものである」か否かという枠組みで保護の有無を決めるのは正当ではない。例えば,センシティブな情報であっても親しい人の間では秘匿される必要がないであろうし,救命のために必要な情報については治療に当たる医師には秘匿される必要がない場合が多いであろう。したがって,誰に対しても,いかなる状況の下においても秘匿されるべき情報というのは通常は想定しにくい。オール・オア・ナッシングで保護の有無が決まるのではなく,誰に対して,どのような状況で開示されるのかという具体的な事情によって保護の有無は異なってくるはずである。

  (2)原判決は,前記のように「氏名,生年月日,性別及び住所については,従前から,原則として,何人も,閲覧や交付を求めることが可能であった(住基法11条1項,12条)こともあり,これらの情報については,完全に秘匿される必要性が高いものであるとまでいうことはできないのである。」としているが,そもそも「原則として,何人も,閲覧や交付を求めることが可能であった」こと自体が問題であったのであり,既に多くの自治体において,その裁量により是正する運用がなされてきたのである。
 そして,個人又は法人が住民基本台帳の一部の写しを閲覧することができる場合を制限する住基法改正案が今国会(第164国会)に提出されているところ,既に参議院を通過しており,まもなく改正が行われるところである。
 なお,金沢地裁判決も,「なお,本人確認情報のうち4情報については,住基ネットシステムの導入前から,何人も,不当な目的によることが明らかである等として市町村長から拒まれない限り,住民基本台帳の一部の写しの閲覧(住基法11条),住民票の写し等の交付(同12条)の手続によって入手することができ,本人にはこれをコントロールするすべがなかったから,もともと4情報については,その情報の本人には,これをコントロールできる可能性がなかったということはできる。しかし,だからといって,上記4情報が法的保護の対象にならないということはできない。なぜなら,住基ネットシステムにおける市町村長,都道府県知事及び被告地自センターによる本人確認情報の通知,保存,提供は,本人確認情報の新たな,しかも甚だしい拡散であるし,そもそも現代社会に於けるプライバシーの権利の重要性に鑑みると,住基法による上記閲覧及び写し等の交付を定めた規定自体の相当性を再検討すべきものと考えられるからである。」(59頁)と述べているとおりである。

  (3)原判決は前記のように,本人確認情報について「完全に秘匿される必要性が高いものであるとまではいえない」としているが,具体的状況等を無視して一括判断をすべきではなく,具体的状況等を考慮して個別に判断する必要があるのである。
     この点,金沢地裁判決は,「本人確認情報が自己情報コントロール権の対象となるか否かを検討するに,個人情報といっても,上記のセンシティブな情報から単なる個人識別に使われる情報まで様々なものがあり,その秘匿を要する有無,程度も様々であって,すべての個人情報がプライバシーにかかる情報として法的保護の対象となるとは解せられない。そして,上記4情報は,一般的には個人識別情報であって,その秘匿の必要性が高いものではないということはできる。しかし,このような個人識別情報であっても,これを他者にみだりに開示されないことへの期待は保護されるべきものである上,秘匿の必要性は,個々人によって様々である。すなわち,ストーカー被害に遭っている人にとっては住所について秘匿されるべき必要性は高いし,性同一性障害によって生物学的な性と異なる性で社会生活を送っている人にとっては性別について秘匿されるべき必要性は高いといわなければならない。通名で社会生活を送っている人のうちには,それが戸籍上の氏名でないことを知られたくない人がいるであろうし,生年月日をむやみに人に知られたくないと思う人は少なくあるまい。また,住民票コードは,それ自体は数字の羅列に過ぎないが,住民票コードが記録されたデータベースが作られた場合には,検索,名寄せのマスターキーになるものであるから,これを秘匿する必要性は高度である(住基法30条の43によって,民間において,住民票コードの告知を求めることや,他に提供されることが予定されているデータベースを構成することが禁止されているが,本人が自主的に住民票コードを開示し,これをもとに特定の企業内部で利用するためにデータベースを構成することは禁止されていないから,民間においても,住民票コードの利用が広まっていく蓋然性は高い。)。更に,上記変更情報は,婚姻,離婚,養子縁組,離縁,氏名の変更,戸籍訂正等の身分上の重要な変動があったことを推知させるものであるから,これらを秘匿する必要性も軽視できない。そうすると,本人確認情報は,いずれもプライバシーにかかる情報として,法的保護の対象となるというべきであり(早稲田大学事件最高裁判決参照),自己情報コントロール権の対象となるというべきである。」(57〜59頁)とし,具体的状況等を考慮して個別に判断しているところである。


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