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杉並区・住基ネット訴訟 控訴理由書から(6/9) 自己情報コントロール権の侵害



  (5)さらに,住基ネットは,後述(第3,3,(3))のように,一部の行政事務への利用では費用対効果の面で効用が乏しいものであり,したがって,住民の自己情報コントロール権との関係を考慮しなければ,効用を大きくするために幅広い行政事務への適用が促進される蓋然性が高い。この関係では,データマッチングによる名寄せの危険が高まる。
 このデータマッチングによる名寄せの危険については,金沢地裁判決が「通知,保存,提供の態様が個人の人格的自律を脅かす危険の有無,程度」として,以下に述べているとおりである。

「ア (中略)
 これによって,すべての住民の本人確認情報は,被告地自センターのコンピュータで一元的に保存されるとともに,国の機関や法人,都道府県知事や市町村長に対して提供される。提供される事務は,住基ネットの一次稼働が始まった平成14年8月5日時点では93事務であったが,同年12月6日に成立した行政手続きオンライン化3法によって,264事務に拡大された。提供を受ける事務は,法律及び条例の制定,改正によって,今後も更に拡大されることが予想される。提供される本人確認情報には,住民票コードが含まれている。すなわち,被告地自センターから本人確認情報の提供を受ける行政事務に関するデータベースには,個人の情報に住民票コードが付されることになるから,これによって,そのデータベース内における検索が極めて容易になる。しかし,それだけに止まらず,これによって,行政機関が持っている膨大な個人情報がデータマッチングされ,住民票コードをいわばマスターキーのように使って名寄せされる危険性が飛躍的に高まったというべきである。
 なお,行政機関では,従前から住民に対して,年金番号,運転免許証番号,健康保険証番号等,様々な番号を付番してきた。しかし,これらの限定された範囲内で使用される番号と異なり,住民票コードは,あらゆる行政事務に利用されうるものであるから,従前の番号とは質的に異なるといわなければならない。
 また,住民は,住民票コードの記載の変更を請求できる(・・・)が,変更してみても,本人確認情報に変更情報が含まれるから,住民票コードのマスターキーの役割に影響を与えない。
イ なるほど,住基法では,本人確認情報の受領者には,当該本人確認情報の提供を求めることができる事務の処理以外の目的のために受領した本人確認情報の利用又は提供をしてはならない旨が定められている(・・・,法30条の34)。しかし,これがデータマッチングや名寄せを禁ずるものであるか否かは文言上判然としない上,仮にそうだとしても,その違反行為に対する罰則は定められていないし,第三者機関の監視のシステムもないから,その実効性は疑わしい。また,行政機関における個人情報の取扱については,「行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律」が平成17年4月1日から施行されているが,これによれば,行政機関は,特定された利用目的の達成に必要な範囲を超えて個人情報を保有してはならない(同法3条2項)が,その利用目的と相当の関連性を有すると合理的に認められる範囲内では利用目的を変更することができる(同法3条3項)し,行政機関の長は,利用目的以外の目的のために保有個人情報を自ら利用し,又は提供してはならない(同法8条1項)が,行政機関が法令の定める所掌事務の遂行に必要な限度で保有情報を内部で利用する場合であって,当該保有個人情報を利用するについて相当の理由があるとき,あるいは,他の行政機関等に保有個人情報を提供する場合において,保有個人情報の提供を受ける者が,法令の定める事務又は業務の遂行に必要な限度で提供に係る個人情報を利用し,かつ,当該個人情報を利用することについて相当な理由のあるときには,当該本人又は第三者の権利利益を不当に侵害するおそれがあると認められる場合を除き,利用目的以外の目的のために保有個人情報を自ら利用し,又は提供することが許容されている(同法8条2項2号,3号)から,同法も,上記のデータマッチングや名寄せを防止できるとする根拠にはなり得ない。
ウ (中略)
 しかし,住民が住基カードを使って各種サービスを受ければ,その記録が行政機関のコンピュータに残るのであって,これに住民票コードが付されている以上,これも名寄せされる危険がある。なお,上記のとおり,住基カード技術的基準では,条例利用アプリケーションに係るシステムへアクセスするための利用者番号に住民票コードを使用しないことが定められているが,総務省は,告示の改正によっていつでもこれを改めることができるから,上記危険を否定することはできない。
エ 行政機関は,住民個々人について膨大な情報を持っているところ,これらは,住民個々人が,行政機関に届出,申請等をするに当たって,自ら開示した情報である。住民個々人は,その手続に必要な限度で使用されるとの認識のもとにこれらの情報を開示したのである。ところが,これらの情報に住民票コードが付され,データマッチングがなされ,住民票コードをマスターキーとして名寄せがなされると,住民個々人の多面的な情報が瞬時に集められ,比喩的に言えば,住民個々人が行政機関の前で丸裸にされるが如き状態になる。これを国民総背番号制と呼ぶかどうかはともかくとして,そのような事態が生ずれば,あるいは,生じなくとも,住民においてそのような事態が生ずる具体的危険があると認識すれば,住民1人1人に萎縮効果が働き,個人の人格的自律が脅かされる結果となることは容易に推測できる。そして,原告らが上記事態が生ずると具体的危険があると認識していることについては相当の根拠があるというべきである。」(72〜75頁)


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