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杉並区・住基ネット訴訟 控訴理由書から(7/9) OECD8原則と住基ネット



  2 OECD8原則と住基ネット

  (1)日本政府は国際人権規約を批准しており,同規約を遵守する法的義務を負っている。
     この点につき,外務省のホームページ(http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kiyaku/index.html)では「国際人権規約は、世界人権宣言の内容を基礎として、これを条約化したものであり、人権諸条約の中で最も基本的かつ包括的なものです。社会権規約と自由権規約は、1966年の第21回国連総会において採択され、1976年に発効しました。日本は1979年に批准しました。なお、社会権規約を国際人権A規約、自由権規約を国際人権B規約と呼ぶこともあります。」として,社会権規約と自由権規約の内容等を紹介している。
     自由権規約(市民的及び政治的権利に関する国際規約)の17条は,私生活、家族、住居、通信に対する恣意的もしくは不法な干渉を禁じるなど,プライバシーの権利を保障しているところ,日本政府はこれを遵守する法的義務を負っているから,憲法及び法令の解釈にあたっても,自由権規約17条を尊重すべき義務がある。
 そして,OECD「プライバシー保護と個人データの国際流通についてのガイドラインに関する理事会勧告」(以下,同ガイドラインで示された8原則を「OECD8原則」という。)は,自由権規約の17条を具体化したものとされているとともに,日本はOECD加盟国でもあるから,法的義務であるか政治的義務であるかはともかくとしても,日本政府としては尊重すべき義務を負っているものである。
 なお,旧行政機関個人情報保護法,個人情報保護法,現行政機関個人情報保護法等につき,その立法過程で,いずれもOECD8原則との対応関係が説明され,OECD8原則に適合している旨の説明がなされてきたが,これは日本政府がOECD8原則を尊重すべき義務を負っているからに他ならない。

  (2)原判決は「そもそもOECD8原則は,OECDにおいて1980年に採択された「プライバシー保護と個人データの国際流通についてのガイドラインに関する理事会勧告」の付属文書中に記載されたものであり,このようなOECDの理事会勧告自体に,法的拘束力を認めることはできないというべきである。」(76〜77頁)とし,あたかも付属文書中の記載であるから法的拘束力が認められないかのような判示をしているが,具体的な内容を別紙のように付属文書中に記載することがあるのであり,何らかの誤解に基づくものと思われる。
 その点はともかく,原判決もOECD原則の第3原則及び第4原則との関係で検討を加えているので,法解釈にあたりOECD原則を無視してよいと判断しているわけではないと言える。

  (3)原判決は,「OECD8原則のうちの目的明確化の原則(第3原則)との関係では,住基法は,その1条において,住民基本台帳及びその事務の目的を規定するとともに,その30条の6から30条の8までにおいて,本人確認情報の提供先と利用事務を明示し,かつ,これに限定しているのであるから,住基法の制度が,目的明確化の原則に違反するということはできないのである。」(77頁)としているが,第3原則は個人情報の収集目的が少なくとも収集時点において明確にされていることを求めているのである。
 もしも収集した後で法律によって収集目的の範囲を定めれば足りるのであれば,OECD8原則のような具体的な定めは一切必要でなく,「個人情報の取り扱い法律の定めによる」という短い1文で足りるのである。原判決は第3原則を誤解しているとしか考えられない。


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