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(2006.9) 第3章 「「合憲的限定解釈論」に対する反論」に対する再反論 第1 「第2 プライバシー権(自己情報コントロール権)の憲法による保障」に対する反論(答弁書15頁以下)について 1 被控訴人らは「プライバシーについて判示した最高裁判所の判決としては,最高裁判所昭和44年12月24日大法廷判決(中略),最高裁判所平成元年4月13日第一小法廷判決(中略),最高裁判所平成7年12月15日第三小法廷判決(中略),最高裁判所平成9年11月17日第一小法廷判決(中略)などがある」とし,「これらの一連の判決は,個人のプライバシーに係る利益が憲法13条に規定された幸福追求権によって基礎付けられる法的保護に値する人格的利益であり,憲法13条により尊重されるべきものとしている」としながらも,「プライバシーの権利がいまだ判例上確立しているわけではない。」と主張している(答弁書15頁)。 しかし,これらの最高裁判決は「個人のプライバシーに係る利益が憲法13条に規定された幸福追求権によって基礎付けられる法的保護に値する人格的利益であり,憲法13条により尊重されるべきものとしている」のであるから,プライバシーの権利が「判例上確立している」と言って何ら差し支えない。これだけの判例があれば充分である。 「個人のプライバシーに係る利益が憲法13条に規定された幸福追求権によって基礎付けられる法的保護に値する人格的利益であり,憲法13条により尊重されるべきもの」とすること以上に一体何を求めようとしているのかが不明であるが,それ以上のことを求めるのは行き過ぎである。 また,被控訴人らは「プライバシーが一つの明確な内容をもった権利として憲法上保障されているとは述べておらず」と言うが,そもそも「一つの明確な内容をもった権利として憲法上保障されている」権利とは,いかなる権利を指しているのかが不明である。憲法上の権利は,一般に必ずしも「一つの明確な内容をもった権利」とは限らないし,「一つの明確な内容をもった権利」である必要はない。 2 被控訴人らは,最高裁平成15年9月12日第二小法廷判決につき,「プライバシーの概念は多義的であり,その内容は流動的であって,最高裁判所は,これを一義的な内容をもった権利として認めることになお慎重であるというべきである。」と主張している(答弁書15〜16)。 しかし,被控訴人らが「プライバシーの概念は多義的」であるとしているのは,プライバシー権の内容が豊富であることにほかならず,被控訴人らが「内容は流動的」であるとしているのは,プライバシー権が歴史的に充実化・発展してきていることにほかならない。単に「流動的」と言うのは方向感覚の喪失と言うべきである。 また,被控訴人らは「最高裁判所は,これを一義的な内容をもった権利として認めることになお慎重である」と言うが,前述のように,いくつもの最高裁判決により充実化・発展してきているのであるし,そもそも「一義的な内容をもった権利」である必要がないのである。被控訴人らは過大な要求をして,それを充たしていないと論じているのであり,不適切である。 3 被控訴人らは「自己情報コントロール権については実体法上の根拠がない」と主張している(答弁書16頁)。 しかし,そもそも憲法上の権利については「実体法」という法律レベルでの根拠は要求されない。 また,被控訴人らは「プライバシーの法的保護の内容は『みだりに私生括(私的生活領域)へ侵入されたり,他人に知られたくない私生活上の事実又は情報を公開されたりしない』利益として把握されるべき」であると主張している(答弁書16頁)。 しかし,プライバシーの法的保護の内容を「みだりに私生括(私的生活領域)へ侵入されたり,他人に知られたくない私生活上の事実又は情報を公開されたりしない」利益としてのみ把握するのは,情報化が進展した現代社会には適合しない理解の仕方である。 4 被控訴人らは「自己情報コントロール権は,金沢地裁判決も判示するとおり,保護されるべき権利・利益の内容やその外延も不明確であるといわざるを得ず,権利として保護される適格や成熟性を欠くというべきである。」と主張している(答弁書17頁)。 しかし,これは金沢地裁判決の正しい理解ではない。金沢地裁判決は「コントロール権が認められる情報」につき外延が明らかではないと言っているにすぎない。「権利・利益の内容やその外延も不明確である」と判示しているというのは誇張である。 そもそも情報の種類の多様性からすれば外延が不明確になるのはむしろ自然なことであり,自己情報コントロール権が認められる情報は,例えば,図解すれば,3重の同心円状になる。真ん中の一番小さい円は,センシティブ性の強い情報であり,ほぼ必ず保護される情報である。二番目の円は,通常保護される情報である。外側の大きな円は,事実関係や状況によっては保護される情報であり,この円の外周は,事実関係や状況に依存するだけに不明確となる。その外周の線は,言わば実線ではなく点線である。 このような構造になっていても,中核的部分ははっきりしているし,それ以外の部分も事実関係や状況によるのはやむをえないことであるから,何ら異とするに足りない。 |
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