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杉並区・住基ネット訴訟 控訴審・第1準備書面から(2/4) 「第3 自己情報コントロール権と本人確認情報」に対する反論


 第2 「第3 自己情報コントロール権と本人確認情報」に対する反論(答弁書17頁以下)について

  1 被控訴人らは「個人識別情報など類型的な情報がプライバシーとして保護されるかどうかを検討する際には,個別の事情を勘案するべきではなく,社会通念に従った類型的判断がされるべきものである」と主張している(答弁書17頁)。
 しかし,そもそも,具体的な個別の事情を勘案しないで保護の要否を決めるのは不当である。最高裁判所の一連の判決も具体的な個別の事情を勘案して保護の要否を決めているはずである。具体的な個別の事情を勘案せずに裁判的保護が与えられることは一般にあり得ないと言うべきである。
 なお,「類型的判断」は,具体的な個別の事情を勘案した判断が集積されることによって可能となるものである。

  2 被控訴人らは,「住基法は,住民票コードについて目的外の使用を禁止しており(中略),住基法上許容される範囲を超えて住民票コードを用いたデータマッチングを行うことは,住民票コードを法令に規定された目的を超えて使用することにほかならず,住民票コードを取り扱う公務員等が住民票コードを名寄せのマスターキーにすることも,上記のような住基法等の規定により禁止されている。したがって,住民票コードが法律上禁止されるデータマッチングや名寄せに利用される具体的危険は認められず,住民票コードを秘匿する必要性は,高度であるなどということはできない。」と主張している(答弁書17頁)。
 しかし,「住民票コードを秘匿する必要性」が高度であるからこそ,禁止規定を置いているのである。その必要性が希薄であれば,禁止規定を置くほどのこともないのである。
 他方,禁止規定を置きさえすれば具体的危険がなくなるというのも単純すぎる判断である。そのような論理は,刑法が存在するから犯罪は起こらないと言うのに等しく,人を死傷する交通事故も業務上過失致死傷罪の規定によって起こらないというに等しい。

  3 被控訴人らは「住基法30条43第1項,及び2項は,民間の相手方が住民本人に対し,住民票コードの告知を要求することを禁止しているから,このようなことが通常行われるとは考えられないし,住民本人が自己の個人情報である住民票コードをあえて民間の相手方に自発的に告知することも考えにくい。仮に,住民本人が民間の相手方から住民票コードの告知を要求されたとしても,法律上これを拒否することができるし,何らかの理由で住民本人が民間の相手方に住民票コードを告知してしまったとしても,民間の相手方が住民票コードの記録されたデータべースを業として構成することは禁止されており(同条3項),これに違反する行為をした者に対しては,都道府県知事は中止の勧告及び命令をすることができ(同条4,5項),命令に違反した者には1年以下の懲役又は50万円以下の罰金が科されることとなっている(同法44条)。したがって,民間において住民票コードの利用が広まっていく蓋然性が高いなどということはなく,金沢地裁判決の判示は,住民票コードの秘匿の必要性が高いことの根拠となるものではない。」と主張している(答弁書19頁)。
 しかし,控訴人も金沢地裁判決も,「民間の相手方が住民本人に対し,住民票コードの告知を要求すること」が「通常行われる」と述べているわけではない。「通常」でなく「たまに」行われても大問題である。また,控訴人も金沢地裁判決も,「民間において住民票コードの利用が広まっていく蓋然性が高い」と述べているわけではない。ごく一部で行われるだけでも大問題である。

  4 被控訴人らは「住基ネットにおいては,婚姻,離婚等の「経歴」自体が変更情報として保有されることはない。例えば,婚姻により姓が変わった場合であれば,修正を行ったという単なる外形的事実を示す「住民票の記載の修正を行った旨」の記載に加え,「職権修正等」,「事由が生じた年月日」のみが「変更履歴」として記載され,これが都道府県知事に通知,提供されるにすぎず,婚姻,離婚等の具体的事由が通知されることはない(中略)。そして,その保有期限も5年に限定されている(中略)。したがって,変更情報は,金沢地裁判決の指摘するような身分関係の変動を端的に推知させる情報でないことが明らかであり,変更情報については秘匿の必要性の程度が相当高いなどという判断も,明らかな誤りである。」と主張している(答弁書20頁)。
 しかし,「住民票の記載の修正を行った旨」・「職権修正等」・「事由が生じた年月日」の記載は婚姻・離婚等を推知させうるものであるし,何もそれらの記載のみで「端的に推知させる」ものでなくても,他の情報と併せることにより推知させることが十分ありうるのである。
  5 被控訴人らは「住基ネットの場合は,住民の居住関係の公証,選挙人名簿の登録,その他の住民に関する事務の処理の基礎とするため(中略)に住民基本台帳に記載されているものであって(中略),その内容も従来から公開情報とされていたものであるから,本件と前記最高裁判所平成15年9月12日判決とは事案が異なるというべきである。」と主張している(答弁書21頁)。
 しかし,住民基本台帳に記載されている情報が「従来から公開情報とされていた」こと自体が不適切であったのであり,それゆえに住民基本台帳法が改正されたのである(平成18年6月15日,同年法律第74号)。なお,法改正以前から,各自治体では無制限な公開を制限していた。


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