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杉並区・住基ネット訴訟 控訴審・第1準備書面から(3/4) 「第4 自己情報コントロール権と住基ネット」に対する反論


 第3 「第4 自己情報コントロール権と住基ネット」に対する反論(答弁書21頁以下)について

  1 被控訴人らは,東京地裁平成18年4月判決が「その漏えい,改ざんについて(中略)若干の可能性が否定できないとしても,制度全体では相応の安全性を有していると評価して良いというべきである。」などと判示している部分を引用している(答弁書21頁)。
 しかし,「相応の安全性」という場合の安全性とは,それなりの安全性であり,充分な安全性ではないことを示しているわけである。なお,同判決としても「漏えい,改ざんについて(中略)若干の可能性が否定できない」として,危険を認めざるを得なかった点に留意すべきである。

  2 被控訴人らは,「自己情報コントロール権説に立つ論者も,住基ネットの運用が直ちに自己情報コントロール権を侵害するものではないとの見解を表明して」いると主張している(答弁書22頁)。
 しかし,そのような論者は,実質上は「自己情報コントロール権説に立つ」とは言えないものである。

  3 被控訴人らは「現行の住基法や行政機関個人情報保護法等の関係法令は,目的範囲内の利用等に当たらないデータマッチングや名寄せを絶対的に禁止するとともに,これに違反した場合には懲戒処分や罰則を課し,第三者機関による監視も実施するなどといった制度を構築している。また,住基ネットの制度上の仕組みに照らしてみても,法の許容しないデータマッチングが行われる具体的危険は皆無であるし,住基カードの利用がデータマッチングをもたらすものでもない。このように,現行の住基ネットにおいて,行政機関による大規模なデータマッチングや名寄せが行われる具体的な危険は存在しないことは明らかである。」と主張している(答弁書22〜23頁)。
 しかし,「現行の住基ネットにおいて」という限定を付けざるを得ないこと自体が,実は,将来は「行政機関による大規模なデータマッチングや名寄せが行われる」ようにする可能性があることを認めているようなものである。莫大な費用を投下していること,被控訴人らが行政効率を至上命題としていることからすれば,将来において法改正により堂々と「行政機関による大規模なデータマッチングや名寄せが行われる」ようになる危険が現時点において認められると言うべきである。
 また,被控訴人らは「金沢地裁判決は,住基法30条の34,行政機関個人情報保護法の諸条項,住基カード等に関する正確な理解を欠き,行政機関又はその構成員たる公務員が法令遵守義務を負うにもかかわらず,これを遵守しないことを前提におよそ起こり得ないような行政機関による大規模なデータマッチングや名寄せの具体的危険を肯定したものであり,到底受け入れられるものではない。そして,住基ネットの稼働,運用によって国民の人格権が侵害される具体的な危険は存在しないのであるから,同判決の判示内容を援用する控訴人の主張には理由がない。」と主張している(答弁書23頁)。
 しかし,公務員の法令遵守義務があれば足りるというのはいかにも単純すぎるのであり,公務員の違法行為や過失が全くありえないかのような前提は現実性を欠いていると言うべきである。
 さらに,被控訴人らは「神戸地方裁判所平成18年6月9日判決(中略)は,『わが国の公権力は,終戦後長らく,法律による行政の原理の遵守を標榜し,(中略)この原理に乗っ取った実務を積み重ねてきた実績があるというべきであり,現時点で,裁判所が,住基ネットの利用規制,守秘義務は刑罰による実効性がおよそ期待できないと断定することは相当ではない。』と判示しているところである。」と主張している(答弁書23頁)。
 しかし,控訴人としても,何も「現時点で,裁判所が,住基ネットの利用規制,守秘義務は刑罰による実効性がおよそ期待できないと断定すること」を求めているわけではない。
 そのような実効性は,ある程度は期待できるであろうが,100%完全ではあり得ないことは明らかである。逆に,そのような実効性を100%期待できると「断定することは相当でない」と言うべきである。

  4 被控訴人らは「第3原則(目的明確化の原則)とは,『個人データの収集目的は,収集時より遅くない時点において明確化されなければならず,その後のデータの利用は,当該収集目的の達成又は当該収集目的に矛盾しないでかつ,目的の変更毎に明確化された他の目的の達成に限定されるべきである。』というものであり(中略),個人情報の収集目的が少なくとも収集時点において明確にされていることを求めているとまではいえない。」と主張する(答弁書24頁)。
 しかし,上記第3原則の前段において「個人データの収集目的は,収集時より遅くない時点において明確化されなければならず」と規定しているのであるから,「個人情報の収集目的が少なくとも収集時点において明確にされていることを求めている」ことは明らかである。
 なお,後段により,「その後のデータの利用」が,「当該収集目的に矛盾しないでかつ,目的の変更毎に明確化された他の目的の達成」につき許容されているが,前段の「明確化」も後段の「明確化」も,データ主体にとって明確であることを要すると考えるべきであり,そのことは第6原則(公開の原則)や第7原則(個人参加の原則)との体系的理解からも求められていると言うべきである。


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