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杉並区・住基ネット訴訟 控訴審・第1準備書面から(4/4) 「第4 自己情報コントロール権と住基ネット」に対する反論


  5 被控訴人らは「『行政事務の効率化』が達成されれば,それは税金負担の軽減,福利施設の充実等といった「住民の利益」にも還元されるのであって,行政事務の効率化と住民の便益を別個独立の行政目的ととらえるベきではなく,総合的に検討されるべきものであるから,同判決の判示は失当である。」と主張している(答弁書25頁)。
 しかし,このような主張を行うこと自体が,住民の利益を正当に顧慮しない被控訴人らの姿勢を端的に示していると言うべきである。そのような還元論に立つのであれば,行政事務の合理化・効率化のみが住基法の目的だと言えば足りることになる。しかしながら,通常「住民の利益」と言えば,より直接的な「住民の利益」を指しているのであり,例えば,住基法においても,「住民の利便を増進するとともに,国及び地方公共団体の行政の合理化に資することを目的とする」(1条)とし,「行政の合理化」と「住民の利便」を区別して捉えているのである。

  6 被控訴人らは「住基ネットは,本人確認情報を国の機関等,都道府県及び市町村で共有することにより,行政コストの削減等を図ることを一つの重要な行政目的としているのであって,住民の一部にでも不参加があると,国の機関等をはじめとする本人確認情報の利用者において,従来のシステムや事務処理を存置せざるを得ないこととなり,住基法が予定する効果の達成は著しく困難となる。このような事態は,住基法のおよそ想定するところではなく,情報通信技術を利用して住民サービスの向上と行政事務の効率化を図ることを目的とした改正法の意義を没却し,住基ネットの存在そのものを否定することにほかならない。」と主張している(答弁書26頁)。
 しかし,そもそも,住基カードの利用が極めて乏しいため,既に「住基法が予定する効果の達成は著しく困難」になっていると言うべきであるし,「情報通信技術を利用して住民サービスの向上と行政事務の効率化を図ることを目的とした改正法の意義」は,例えば,旅券の電子申請を平成18年度で廃止せざるをえなくなったように,十全とはいかなくなっているのである。強引に画一的に適用しようとすること自体に無理があったと言うべきである。

  7 被控訴人らは「一部の住民の本人確認情報を送信していなかった横浜市においても,『年金等の現況確認事務では,一度に膨大な件数を処理する必要があることから,住基ネットの情報を一括で取り込み,現存確認を行う。そのため,非通知者は死亡した方など他の消除者同様,現存していないと判断されてしまい,年金の支給を停止する可能性があり,これを避けるため,横浜市の本人確認情報は通知者を含め全て利用できない状況である。』,『実際に,すでに利用が始まっている共済年金の現況確認では,横浜市民の本人確認情報は全て利用されていない状況にあるが,この件に関し,横浜市には共済年金を受給している通知者の方から多数苦情がよせられてる。』などと指摘されている(中略)のであり,いわゆる横浜方式を採用した横浜市においても,無視できない支障が生じていたことが確認されている。」と主張している(答弁書26頁)。
 しかし,年金等の現況確認事務につき,住基ネットで現況確認できる者については住基ネットで確認し,そうでない者については従来と同様の方法で現況確認をすれば足りるところ(甲47),後者についてそれを行うことなく,「現存していないと判断」すること自体が根本的問題であって,問題の本質をそらす指摘である。なお,年金等の現況確認事務を理由とした圧力に横浜市が屈したという見方も存在しているところである。
 また,被控訴人らは「横浜市は,(中略)『住基ネットの総合的な安全性について,『横浜市本人確認情報等保護審議会』からの答申や市会からの意見なども踏まえ,庁内で慎重に検討した結果,住基ネットは総合的に見て安全であると判断し,住基ネットに全員参加する』旨表明している」と主張している(答弁書27頁)。
 しかし,「住基ネットは総合的に見て安全であると判断し」たという根拠は希薄である。横浜市が方針変更に至るまでの間に住基ネットの安全性を確認できる新たな事実は特に発生していない。


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