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杉並区・住基ネット訴訟 控訴審・第3準備書面から(1/4) プライバシー権の憲法的保障について

(2007.2)

はじめに

 控訴人は,大阪高裁平成18年11月30日判決(以下「大阪高裁判決」という。)(甲72),名古屋高裁金沢支部平成18年12月11日判決(以下「名古屋高裁判決」という。)(甲74),横浜地裁平成18年10月26日判決(以下「横浜地裁判決」という。)(甲75)に関し,以下のとおり主張する。

第1 プライバシー権・自己情報コントロール権に関する3判決の判示

1 プライバシー権の憲法的保障について

(1)プライバシー権が憲法13条によって保障されていることについて,大阪高裁判決(甲72 46〜47頁)は,「個人の人格の尊厳は近代民主主義思想の根底をなすものであり,憲法13条は,そのような個人の尊重,その生命・自由及び幸福追求という個人の人格的生存に不可欠の権利を宣明し,公共の福祉の実現を任務とする国家も,これらの権利に最大の尊重を払うべきことを要求している。他人からみだりに自己の私的な事柄についての情報を取得されたり,他人に自己の私的な事柄をみだりに第三者に公表されたり利用されたりしない私生活上の自由としてのプライバシーの権利は,人の人格的自律ないし私生活上の平穏の維持に極めて重要なものというべきであるから,いわゆる人格権の一内容として,憲法13条によって保障されているものと解するのが相当である。」とし,「自己の私的事柄に関する情報(個人情報)が,自己の知らないうちに,他者によって勝手に収集,利用されるということが行われれば,民主主義社会における自己責任による行動の自由(人格的自律)や私生活上の平穏が脅かされることになる。他方,社会の変化に伴い個人情報の取り扱われ方は変化していく。とりわけ,情報通信技術が急速に進歩し,情報化社会が進展している今日においては,コンピュータによる膨大な量の情報の収集,保存,加工,伝達が可能となり,また,インターネット等によって多数のコンピュータのネットワーク化が可能となり,人は自己の個人情報が他者によってどのように収集,利用等されるかについて予見,認識することが極めて困難となっている。このような社会においては,プライバシーの権利の保障,それによる人格的自律と私生活上の平穏の確保を実効的なものにするためには,自己のプライバシーに属する情報の取扱い方を自分自身で決定するということが極めて重要になってきており,その必要性は社会において広く認識されてきているといえる。今日の社会にあって,自己のプライバシー情報の取扱いについて自己決定する利益(自己情報コントロール権)は,憲法上保障されているプライバシーの権利の重要な一内容となっているものと解するのが相当である。」としており,これらは,控訴人が控訴理由書31〜35頁等で主張してきたことと同旨である。

(2)また,名古屋高裁判決(甲74 32〜33頁)も,「憲法13条は,「すべて国民は,個人として尊重される。生命,自由及び幸福追求に対する国民の権利については,公共の福祉に反しない限り,立法その他の国政の上で,最大の尊重を必要とする。」と規定し,すべての国民は,人格的存在(社会的関係性にある人間)であるがために個人として尊重されるべき存在であり,生命,自由及び幸福追求に対する権利(以下,一括して「幸福追求権」という。)を有することを確認し,その保障すべき旨を定めているところ(最高裁昭和44年12月24日大法廷判決・刑集23巻12号1625頁参照),国民が個人として尊重されるためには個人の人格的自律を可能とする人格的生存に不可欠な利益を国家機関等の公権力の行使から保護する必要があることから,憲法13条は,その保護のために,国民に対し,幸福追求権として,包括的に個人の人格的自律を可能とする人格的生存に不可欠な利益を憲法上の権利として保障しているものと解されるのである。そして,個人の人格的自律ないし人格的生存は個人の私生活上の自由及び平穏が国家機関等の公権力の行使から保護されて初めて確保される関係にあるから,憲法は,その13条により,幸福追求権の一内容をなす憲法上の権利として,個人の人格的自律ないし人格的生存の基盤をなす個人の私生活上の自由及び平穏を国家機関等の公権力の行使から包括的に保障するとともに,過去の侵害の事実等を踏まえて,上記の個人の私生活上の自由及び平穏の保護に関し,信教の自由に関する憲法20条,集会等の自由に関する憲法21条,居住等の自由に関する憲法22条,学問の自由に関する憲法23条,身体の自由に関する憲法33条及び34条,住居等の不可侵を定める憲法35条等による基本権を個別に列挙してその保障を明示しているものと解されるのである。」とし,「国家機関等の公権力が,他者に知られたくない個人の私生活上の情報を密かに収集し,それをみだりに他者に開示したり,そのような情報に基づき,直接にあるいは間接に個人の私生活に対して干渉する事態が生ずることになれば,個人の私生活における平穏が侵害され,個人が自由に自らの生き方を決定するという人格的自律が脅かされることになるから,このような国家機関等の公権力による個人の私生活上の情報の収集,公開及び私生活に対する干渉からの自由は,憲法13条が保障している幸福追求権の一内容として,個人の私生活上の自由及び平穏に関する利益で,個人の人格的自律ないし人格的生存に必要不可欠な利益(上記個別規定で保障されている基本権と同等の憲法的価値を有する人格的利益)を内容とする人格権に基づくプライバシーに関する権利(以下「プライバシー権」という。)として,すべての国民に保障されているものというべきであり,国家機関等の公権力といえども,正当な理由がなく,社会生活上当然に受忍すべき限度を超えて,上記のような私生活上の平穏を害し,あるいは,その自由・自律に干渉するような態様において,個人の私生活上の情報を収集し,管理し,利用(他者への開示を含む。)することは,憲法13条が保障するプライバシー権を侵害するものとして許されない。」としているが,これらも控訴人が控訴理由書31〜35頁等で主張してきたことと同旨である。

(3)さらに,横浜地裁判決(甲75 35頁)も,「憲法13条は,すべての国民が個人として尊重されることを保障しているが,個人として尊重されるためには,私生活上の自由を保障することが不可欠であるから,「私生活をみだりに干渉されない権利」としてのプライバシー権は,憲法13条により保障されているというべきである。さらに,高度に情報化された現代社会においては,インターネット等を通じた個人情報の収集,利用,提供により個人の尊厳が脅かされるおそれがある。そうすると,個人の尊厳を保障するためには,プライバシー権を単に「私生活をみだりに干渉されない権利」と解するだけでは足りず,「みだりに自己の情報を収集,利用,提供されない権利」(自己情報コントロール権)をも含む権利であると解するのが相当であり,このような自己情報コントロール権は,憲法13条により保障されているものというべきである。」としているところである。

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