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杉並区・住基ネット訴訟 控訴審・第3準備書面から(3/4) 本人確認情報の要保護性について


3 本人確認情報の要保護性について

(1)本人確認情報が自己情報コントロール権の対象として保護されるかにつき,大阪高裁判決(甲72 47〜50頁)は,「住基ネットの対象となる本人確認情報は,「氏名」「生年月日」「男女の別」及び「住所」の4情報に,「住民票コード」及び「変更情報」を加えた6情報である。」,「本人確認情報のうち4情報は,人が他者との関わりを持つ社会生活の基礎となる個人識別情報であって,個人の私的情報ではあるが,同時に公共領域に属する個人情報であるといえるものであり,もともと秘匿性の高いものとはいえない。そして,4情報については,住基ネットシステムの導入前から,不正な目的によるものでないことが明らかであるとして市町村長から拒まれない限り,何人も,本人の同意なく,住民基本台帳の一部の写しを閲覧し(住基法11条),住民票の写し等の交付を請求する(同法12条)ことができた。また,住民基本台帳制度は,国及び地方公共団体の行政の合理化に資することをも目的としており(同法1条),住民登録事項が国及び地方公共団体の行政に利用されることが予定されているといえる。」としつつも,「しかし,そうだからといって,直ちに本人確認情報が法的に保護されるべき人格的利益に当たらないと結論できるわけではない。人は素性を知らない他人に対して然るべき理由もないのに自己の氏名や住所を明かすことはないといえるし,今日の社会においては,一般的に秘匿性の低い個人情報であっても,人によってはある私的生活場面では秘密にしておきたいと思う(秘匿性の高い)事柄があり,そのような個人情報の取扱い方についての本人の自己決定を承認する社会的意識が形成されていると認めて差し支えないと思われる。例えば,ストーカー被害に遭っている人にとっては氏名,年齢,住所等について,性同一性障害の人にとっては性別について,それぞれ秘匿の必要性は高いといえる。また,変更情報は,本人確認情報について変動が生じた場合に,「住民票の記載の修正を行った旨」の記載に加え,「職権修正等」,「事由が生じた年月日」のみが記載され,これが「変更履歴」となり,婚姻,離婚等の具体的事由が記載されるわけではない(同法30条の5第1項,同施行令30条の5,同施行規則11条)けれども,氏の変更は身分関係(婚姻,離婚,養子縁組,離縁等)に変動があったことを推知させることにもなるから,秘匿の必要性も軽視できないといえる。住民票コードは,それ自体数字の羅列にすぎない技術的な個人識別情報であるが,住民票コードが記載されたデータベースが作られた場合には,検索,名寄せのマスターキーとして利用できるものであるから,その秘匿の必要性は高度であるといえる。さらに,4情報について何人も本人の同意なく住民基本台帳の一部の写しの閲覧や住民票の写し等の交付を請求することができたことについては,市町村長において閲覧を拒絶できる場合があったから,それが無制限に許されたわけではないし,そもそもその取扱いについてはプライバシー保護の観点から疑問が提起されていたものである・・・。また,住民基本台帳制度は,国及び地方公共団体の行政の合理化に資することも目的としているが,そうだからといって,本人確認情報を自由に収集,利用することが許されるものではなく,利用の目的と手続について法の規制に従わなければならないものである。」として,「一般的には秘匿の必要性の高くない4情報や数字の羅列にすぎない住民票コードについても,その取扱い方によっては,情報主体たる個人の合理的期待に反してその私生活上の自由を脅かす危険を生ずることがあるから,本人確認情報は,いずれもプライバシーに係る情報として,法的保護の対象となり(最高裁判所平成15年9月12日第二小法廷判決・民集57巻8号973頁参照),自己情報コントロール権の対象となるというべきである。」としている。これも,控訴人が控訴理由書37〜40頁等で主張してきたことと同旨である。

(2)また,名古屋高裁判決(甲74 35〜36頁)は,「本人確認情報そのものが,個人の人格的自律ないし人格的生存に必要不可欠な,個人の私生活上の自由及び平穏に関する利益(憲法の個別規定で保障されている基本権と同等の憲法的価値を有する人格的利益)として,憲法13条により保障されているものと解することには疑問がないわけではない。」としつつも,「本人確認情報のうち,住民票コードとその変更情報を除いた氏名,住所,生年月日及び性別の4情報とこれらの変更情報は,その一体的な取扱いにより,特定の個人を極めて容易に検索することができるため,国家機関等の公権力が,これらの情報を媒介にして,その情報に係る個人の私生活に関する情報を広範囲に収集し,そのことにより,その言動等を把握し,監視し,さらには,これに直接あるいは間接に干渉することが可能となることから,国民がそのことに対する危惧,不安を感じ,その言動(例えば,集会や市民運動への参加)を抑制するなどのおそれがないわけではなく,その意味で,これら情報は,その取扱い(収集,管理又は利用)次第では,個人の人格的自律ないし人格的生存に必要不可欠な利益としての個人の私生活上の自由又は平穏に影響を及ぼし,プライバシー権を侵害する危険があり,また,住民票コードは,特定の個人についての迅速な検索処理を可能とし,かつ,確実な本人確認を可能とする目的で住民に付されたものであるから,住民票コードとその変更情報は,その高度な個人識別性の故に,他の本人確認情報以上に,その取扱い次第では同様の危険があり,したがって,国家機関等の公権力が住基ネットにおいて本人確認情報を取り扱うことは,憲法13条が国民に対して保障している,個人の人格的自律ないし人格的生存に必要不可欠な利益としての私生活上の自由及び平穏と密接な関連をもつものということができる(指紋押なつに関する最高裁平成7年12月15日第三小法廷判決・刑集49巻10号842頁参照)。」とし,「本人確認情報は,憲法13条が,国民に対して保障するプライバシー権の中核をなすところの,個人の人格的自律ないし人格的生存に必要不可欠な,個人の私生活上の自由及び平穏に関する利益(憲法の個別規定で保障されている基本権と同等の憲法的価値を有する人格的利益)には直接に関わるものとはいえないが,その高度な個人識別性の故に,これに密接に関連する利益として,なお憲法13条が国民に保障するプライバシー権の内容となり,それによる保護の対象となるものと解するのが相当である。」としている。


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