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杉並区・住基ネット訴訟 控訴審・第4準備書面から(1/6) プライバシー(自己情報コントロール権)の権利性について

(2007.7)

第1章 プライバシー権(自己情報コントロール権)と本人確認情報について

第1 プライバシー(自己情報コントロール権)の権利性について

 1 被控訴人の主張(被控訴人準備書面(3)10頁以下)は,要するに,第1に,自己情報コントロール権には実定法上の明確な根拠がないこと,第2に,自己情報コントロール権の内容や外延が不明確であることからして,大阪高裁判決が不当であるとするものである(なお,「差止請求権の根拠たり得る実体法上の権利」という記述になっているが,本件においては,「差止請求権の根拠たり得る」か否かは直接的な問題ではない。また,「実体法」は「手続法」に対する概念であろうから,「実体法」とあるのは「実定法」の意味と思われる。)。
 2 しかし,そもそも,そのような非難は,プライバシー権についても該当しそうである。プライバシーを保護することを明示した実定法は存在しないし,プライバシー権の内容や外延も実は必ずしも明確とは言い難い。
   例えば,被控訴人が引用している杉原則彦最高裁調査官の解説(『最高裁判所判例解説民事篇 平成15年度(下)(7月〜12月分)』)(以下,「杉原解説」という。)においても,「プライバシーとして保護される対象や,いかなる侵害が違法になるかといった点については,なお検討を要する点が多い。」「プライバシー侵害として論じられる事案は,その保護利益の性質も侵害行為の態様も多種多様である。」(485頁)としているとおりである。
   それにもかかわらず,多くの下級審裁判例が具体的事案においてプライバシー権を保護し,最高裁判例も,最高裁平成7年9月5日判決(裁判集民事176号563頁),最高裁平成7年12月15日判決(刑集49巻10号842頁),最高裁平成14年9月24日判決(裁判集民事207号243頁),最高裁平成15年3月14日判決(民集57巻3号229頁),最高裁平成15年9月12日判決(民集57巻8号973頁)(以下,「江沢民主席講演会事件上告審判決」という。)においてプライバシーが法的に保護されることを認めているのである。
   被控訴人の主張は,権利ないし法的に保護される利益について,その名称が法文に記載されていなければ一切保護されないとし,また,権利ないし法的に保護される利益が予め一義的に明確に決まっていない限り保護されないとして,具体的な事案の積み重ねによる判例の形成を否定するものであり,度が過ぎた法実証主義的思想と言わざるをえない。
 3 また,被控訴人の主張は,プライバシー権と自己情報コントロール権を全く別個のものと理解しているように見えるが,プライバシーと総称されるものの中で,情報化社会においては自己情報をコントロールする法的利益の重要性が高まってきたことを踏まえて,その法的利益が自己情報コントロール権と呼ばれているというのが実際である。
   このことは,被控訴人が引用する杉原解説においても,多数の下級審裁判例を紹介した後で,「これらの裁判例をみると,プライバシーの権利の概念については,「私生活をみだりに公開されない権利」だけではなく,「自己情報コントロール権」に近い内容のものも加わってきているといえよう。この背景には,プライバシーの権利の侵害について,夫婦生活とか異性関係等のセンシティブな情報だけでなく,電話番号等の私生活上の情報が問題となる事案も出てきたこと,また,プライバシーの権利の侵害行為についても,表現行為だけでなく,第三者が保有する情報の提供が問題となり始めたことを指摘することができよう。」(486頁)としているとおりである。
   この点については,2007年5月18日付中島徹教授の鑑定意見書(甲84)が,「肝心なことは,The Right to Privacyという語の理解に,情報の秘匿権と自己決定権という両面が本来的に具わっていたという点です。日本では,しばしばプライバシー権の定義について「一人で放っておいてもらう権利から自己情報コントロール権へ」と変化したと説明されます。これはしかし,プライバシー権の理解が質的に変化したということを意味しているのではありません。すでに見てきたように,もともと「一人で放っておいてもらう」ということに含まれていた自己決定の側面が,自分に関する情報についても意識されるようになったということにすぎないのです」(5頁)と説明しているように,もともとプライバシーの中に含まれていた情報の自己決定権が高度情報化社会の中でより強く意識され問題となるようになったというのが正しい理解である。
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