ホーム > コンピュータ・知財 > プライバシ−・個人情報 >  

杉並区・住基ネット訴訟 控訴審・第4準備書面から(2/6) プライバシー(自己情報コントロール権)の権利性について


 4 また,杉原解説は,「プライバシーの保護によって守られるべき法的利益は私生活の平穏であるから,損害賠償の対象となるのは,私生活上の不安,嫌悪感,不快感といった精神被害である。また,前述のとおり,自己に関する情報を管理する権利こそが被侵害(要保護)利益と考えられるべきであるという見解も有力になってきている。そうすると,プライバシーの権利とは,「私的領域への介入を拒絶し,自己に関する情報を自ら管理する権利」ということになる。高度情報化社会では,様々な情報へのアクセスが容易になったことによって.一度漏えいした私的情報は直ちに他者からのアクセスにもさらされることになる。そこで,ある情報漏えいが直ちに私生活の平穏を具体的に害するものでないとしても,情報の漏えいは意に反する他者への公開の危険(私生活の平穏を侵害する抽象的危険)を包含することになる。自己に関する情報を管理する権利は,必ずしも内容の明確な権利とはいい難いが,このような社会背景を前提に理解されるべきものであろう。本判決が情報の開示について本人の「同意」を重要な要件としているのも,このような自己に関する情報を管理する権利の考え方と親和的なものとみることができよう。」(488頁)としており,最高裁調査官によっても,江沢民主席講演会事件上告審判決は自己情報コントロール権の考え方と親和的な判示をしているとされているのである。

 5 被控訴人は,行政機関個人情報保護法に自己情報コントロール権が明記されていないことを論拠として主張しているところ,自己情報コントロール権が明記されていないこと自体は事実であるとしても,そのことゆえに自己情報コントロール権と内容を同じくするものが行政機関個人情報保護法に含まれていないと解釈すべきであると主張しているとすれば,論理の飛躍にほかならない。
   つまり,被控訴人は,衆議院会議録を引用し,「法案に明記することは適切ではないとの答弁がされた」と主張しているが,自己情報コントロール権という用語が法案に明記されなかったとしても,憲法及び他の法令を含め総合的に解釈されて,具体的事案において自己情報をコントロールする法的利益を裁判所が認めることが妨げられるわけではない。
   また,被控訴人は,総務省行政管理局監修『行政機関等個人情報保護法の解説』を引用しているところ,同書の第1条についての解説末尾の「参考」においては,同「法は『プライバシー権』や『自己情報コントロール権』という文言を用いず,あくまで個人情報の取扱いに伴い生ずるおそれのある個人の人格的,財産的な権利利益に対する侵害を未然に防止することを目的として,個人情報の取扱いに関する規律と本人関与の仕組みを具体的に規定するものである」(9〜10頁)としているにとどまる。
   すなわち,「自己情報コントロール権」という文言を用いなかったことが,「自己情報コントロール権」を保障してはいけないという趣旨を含むとは言えないし,「個人情報の取扱いに伴い生ずるおそれのある個人の人格的,財産的な権利利益に対する侵害を未然に防止することを目的として,個人情報の取扱いに関する規律と本人関与の仕組みを具体的に規定する」ことは,一定の場合に自己情報をコントロールする必要性と正当性を認めているからこそである。なお,被控訴人も「行政機関個人情報保護法は,開示請求権,訂正請求権及び利用停止請求権を明文で定めており(同法12条,27条及び36条),これらの権利は,その内容において,大阪高裁判決の判示する自己情報コントロール権と共通するものを含んでいる。」としているように,行政機関個人情報保護法の規定する内容は自己情報コントロール権の内容と極めて親和的である。
   ところで,上記解説は,プライバシー権も自己情報コントロール権も共に,一義的に明確でないとして,それらの文言を用いなかったとしているのであるが,裁判例の積み重ねにより認められてきたプライバシー権の裁判的保護を否定する趣旨でないことは明らかであろう。


タイトル
お名前
email
ご感想
ご確認 上記内容で送信する(要チェック


 


   ホーム > コンピュータ・知財 > プライバシ−・個人情報 > 杉並区・住基ネット訴訟 控訴審・第4準備書面から(2/6) プライバシー(自己情報コントロール権)の権利性について