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杉並区・住基ネット訴訟 控訴審・第4準備書面から(5/6) 本人確認情報の要保護性


第2 本人確認情報の要保護性

 1 被控訴人は,江沢民主席講演会事件上告審判決につき,同事件についての杉原解説を援用しつつ,「氏名,学籍番号,住所及び電話番号」という「単純な情報」それ自体について,プライバシーに係る情報としての法的保護の対象とすべき旨を判示したものでない」とし,「講演会の参加申込者であるという,公開することが当然視できない情報が,氏名等のこれらの「単純な情報」と結びつくことによって,誰が講演会に参加したかが明らかになることから,この情報全体について,プライバシーに係る情報としての法的保護の対象となることを認めたものである」と主張している(被控訴人準備書面(3)14頁以下)。

 2 しかしながら,被控訴人の主張は,杉原解説を正しく理解したものではない。
 杉原解説は,「本件個人情報は,]らの氏名・学籍番号,住所及び電話番号並びに]らが本件講演会の参加申込者であることであって,前4者の情報は基本的には個人の識別などのための単純な情報であるが,このような本来一定範囲の他者には当然開示すべき単純な個人情報であっても,自己が欲しない他者にはこれを開示されたくないと考えることは自然なことであろう。そして,本件講演会が一定の思想,信条,し好を示すものでなく,本件講演会への参加申込者であることは大学の学生として教育活動への参加を希望したことを意味する情報にすぎないとしても,そのことも公開されることが当然とされる情報ではない。そして,本件個人情報は周知されていたものではない。そうすると,本件個人情報は全体としてプライバシーに当たる情報であると考えられる。判決要旨1は,この趣旨を明らかにしたものである。」(489〜490頁)というものであり,上記「単純な情報」についても「自己が欲しない他者にはこれを開示されたくないと考えることは自然なことであろう」としているのである。
 また,「本件講演会への参加申込者であること」「も公開されることが当然とされる情報ではない」としているのであり,「本件講演会への参加申込者であること」との結びつきを必須のものとはしていないのである。日中国交回復の前であれば中国の国家主席の講演会に参加申込みをしたことがセンシティブな情報に該当するかも知れないが,国交が回復され,政府が日中友好を促進している状況で,国賓として来日する中国の国家主席の講演会に参加申込みをすることは,あまりセンシティブな情報とは言い難いであろう。

 3 大阪高裁判決(甲72)は,「人は素性を知らない他人に対して然るべき理由もないのに自己の氏名や住所を明かすことはないといえるし,今日の社会においては,一般的に秘匿性の低い個人情報であっても,人によってはある私的生活場面では秘密にしておきたいと思う(秘匿性の高い)事柄があり,そのような個人情報の取扱い方についての本人の自己決定を承認する社会的意識が形成されていると認めて差し支えないと思われる。」(48頁)としており,この認識は江沢民主席講演会事件上告審判決及び杉原解説とほぼ共通の認識である。
 そして,中島徹鑑定意見書(甲84)が指摘しているように,この認識の点において,大阪高裁判決は,名古屋高裁判決(甲83)・名古屋高裁金沢支部判決(甲74)と異なっているわけである(19頁)。要するに,3つの高裁判決の中で,大阪高裁判決の判示こそが,江沢民主席講演会事件上告審判決の判示に近いものと言うことができよう。

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