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杉並区・住基ネット訴訟 上告理由書から( 1/13) 住民の憲法上の権利を地方自治体が主張することについて

(2008.2)

第2点 違憲主張適格の解釈についての原判決の誤り(憲法76条・81条解釈及び憲法92条・94条解釈の誤り)

 第1 住民の憲法上の権利を地方自治体が主張することについて

1 原判決は,「控訴人が,非通知希望者に係る本人確認情報を被控訴人東京都に送信することは当該住民のプライバシー権を侵害するものであり違憲又は違憲の疑いがあると判断したとしても,そのような個人の権利を侵害するか否かの判断の前提となる違憲性は,それにより自己のプライバシー権を侵害されたと主張する国民が法的救済を求めた場合に判断されるべきことであ」るとか(29頁),「本件において控訴人が保護されるべきものとして主張する本人確認情報は,個人の氏名,出生の年月日,男女の別,住所の4情報と住民票コード及びこれらの変更情報であるところ,これらが第三者に開示されるときは,個人が特定され,その結果個人の私生活上の平穏が害されるおそれが生ずるから,個人のプライバシーに関する情報に当たり,法的保護に値するものということができる。したがって,住基ネットの稼働によってこのような利益が侵害され,又は侵害される可能性がある場合,これによって生じた損害の賠償又は住基ネットの運用の差止めの可否等が問題となるが,これらは,侵害されたと主張する当該個人が地方公共団体等を相手に法的救済を求めた場合に判断されるべき事柄であ」るとか(31〜32頁)判示し(下線は上告人代理人),上告人は住民のプライバシー権の侵害について主張できないとしている。

2 しかしながら,この判示は,憲法76条の司法権及び憲法81条の法令審査権の解釈を誤って司法権・法令審査権の範囲を過度に限定するものであるとともに,憲法92条・94条の地方自治権の解釈を誤って地方自治体の権能を不当に制限するものである。
  沖縄県知事署名等代行職務執行命令訴訟における最高裁平成8年8月28日大法廷判決<平成8年(行ツ)第90号>(民集50巻7号1952頁)は,以下のとおり,住民の平和的生存権,財産権,適正手続の保障を受ける権利を理由とする沖縄県知事の主張について判断しており,地方自治体の首長が住民の憲法上の権利を根拠として主張すること自体を認めているが,それは,憲法76条の司法権及び憲法81条の法令審査権についての正しい解釈に基づくとともに,憲法92条・94条の地方自治権についての正しい解釈に基づくものである。

「二 駐留軍用地特措法の合憲性
 1 本件職務執行命令の法的根拠となった駐留軍用地特措法の合憲性が,右命令がその適法要件を充足しているか否かを審理判断すべき本件訴訟における審査の対象となることは,前記のとおりであるところ,所論は,日米安全保障条約及び日米地位協定に基づきアメリカ合衆国の軍隊の我が国における駐留を認めることが憲法に違反するものでないとしても,駐留軍の用に供するために土地等を強制的に使用し,又は収用することは,憲法前文,9条,13条に基づき保障された平和的生存権を侵害し,憲法29条3項に違反するというのである。
 日米安全保障条約六条,日米地位協定2条1項の定めるところによれば,我が国は,日米地位協定25条に定める合同委員会を通じて締結される日米両国間の協定によって合意された施設及び区域を駐留軍の用に供する条約上の義務を負うものと解される。我が国が,その締結した条約を誠実に遵守すべきことは明らかであるが(憲法98条2項),日米安全保障条約に基づく右義務を履行するために必要な土地等をすべて所有者との合意に基づき取得することができるとは限らない。これができない場合に,当該土地等を駐留軍の用に供することが適正かつ合理的であることを要件として(駐留軍用地特措法3条),これを強制的に使用し,又は収用することは,条約上の義務を履行するために必要であり,かつ,その合理性も認められるのであって,私有財産を公共のために用いることにほかならないものというべきである。国が条約に基づく国家としての義務を履行するために必要かつ合理的な行為を行うことが憲法前文,9条,13条に違反するというのであれば,それは当該条約自体の違憲をいうに等しいことになるが,日米安全保障条約及び日米地位協定が違憲無効であることが一見極めて明白でない以上,裁判所としては,これが合憲であることを前提として駐留軍用地特措法の憲法適合性についての審査をすべきであるし(最高裁昭和34年(あ)第710号同年12月16日大法廷判決・刑集13巻13号3225頁参照),所論も,日米安全保障条約及び日米地位協定の違憲を主張するものでないことを明示している。そうであれば,駐留軍用地特措法は,憲法前文,9条,13条,29条3項に違反するものということはできない。
 2 所論は,駐留軍用地特措法は,憲法31条に違反するとも主張する。
 行政手続については,それが刑事手続ではないとの理由のみで,そのすべてが当然に憲法31条による保障の枠外にあると判断することは相当ではないが,同条による保障が及ぶと解すべき場合であっても,保障されるべき手続の内容は,行政処分により制限を受ける権利利益の内容,性質,制限の程度,行政処分により達成しようとする公益の内容,程度,緊急性等を総合較量して決定されるべきものである(最高裁昭和61年(行ツ)第11号平成4年7月1日大法廷判決・民集46巻5号437頁参照)。
 これを駐留軍用地特措法の定める土地等の使用又は収用の手続についてみると,同法の定める手続の下に土地等の使用又は収用を行うことが,土地等の所有者又は関係人の権利保護に欠けると解することはできないし,また,国が主体となって行う駐留軍用地特措法に基づく土地等の使用又は収用につき,国の機関である被上告人がその認定を行うこととされているからといって,適正な判断を期待することができないともいえない。したがって,駐留軍用地特措法は,憲法31条に違反するものではない。
 3 以上によれば,駐留軍用地特措法は,所論の憲法の各条項に違反するものではなく,これと同旨の原審の判断は,正当して是認することができる。同法の違憲をいう論旨は,採用することができない。」(下線は上告人代理人)


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