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杉並区・住基ネット訴訟 上告理由書から( 4/13) サイレント・マジョリティは住基ネットに不安を感じていること、少なくとも2つの群の人々がいること


第3点 憲法13条に基づき住基法30条の5第1項を合憲的に限定解釈しなかった原判決の誤り(憲法13条解釈の誤り)

 第1 サイレント・マジョリティは住基ネットに不安を感じていること

1 総務省の資料(「住民基本台帳カード(住基カード)の 交付状況等について」http://www.soumu.go.jp/c-gyousei/daityo/pdf/050217_1.pdf)によれば,住基カードの交付枚数は平成18年3月末においては全国で約91万枚であり,交付を受けているのは国民の0.72%にすぎない。住基ネットの利便さを活用するためには住基カードの交付を受けることが必要であるにもかかわらず,現実に住基カードの交付を受けているのは,国民の1%にも満たない状況である。これは厳然たる事実である。

2 自己の個人情報が住基ネットで利用されることにつき差止めを求める訴訟が全国で16件提訴されたが,その原告の数は約450名である。原告になった国民以外に原告を支援するための活動を行っている国民を加えても,住基ネットにつき差止めを求めて現に行動している国民の数は,91万人を超えることはないであろう。これも厳然たる事実である。

3 これらの2つの事実は,どのように整合的に合理的解釈ができるであろうか。
  住基カードの交付を受けるためには,能動的に自ら交付申請行為を行わなければならない。それは交付を受けるためのハードルとして機能する。他方,住基ネット差止訴訟の原告となったり原告を支援するための行動は時間や労力をかなり費やす活動であり,住基カードの交付申請行為の少なくとも100倍以上の時間や労力を要するであろう。住基カードの交付申請行為よりも,住基ネット差止訴訟の原告となったり原告を支援するための行動の方が格段にハードルが高いことは疑いないところである。
  住基ネットにつき行政の合理化や住民にとっての利便性を評価するのであれば,住基カードの交付を受けて行政の合理化を助け,住民にとっての利便を享受しようとするのが自然であるが,大多数の国民は,そのような行動をとっていない。このことは,大多数の国民が住基ネットのメリットとデメリットの比較につき,デメリットを十分に凌駕するほどのメリットを感じていないということに他ならない。かといって,デメリットに関し差止訴訟の原告となったり原告を支援するための行動はハードルが高すぎるので,行っていないということになる。
 したがって,国民のサイレント・マジョリティは,住基ネットに疑問や不安を感じつつも,それに反対する行動を積極的には行っていないというのが実情であると解される。

 第2 少なくとも2つの群の人々がいること

1 住基ネットと個人情報の扱いについて,国民,そして杉並区民は,次の2つのグループに分けることができる。
 A群は,住基ネットからの個人情報の流出等の危険は心配する必要がないと考えるか,その危険があるとしても,行政との関係での利便性を重視しようと考える住民であり,B群は,行政との関係での利便性よりも,住基ネットからの個人情報の流出等の危険を重視しようと考える住民である。
 A群とB群のどちらが人数が多いかは必ずしも明らかではないとしても,少なくとも,これら2つの群の人々が存在することは間違いない。杉並区においては,全国に先駆けて個人情報保護条例が制定されたことや住基ネットの導入に慎重な区長が選任されていることなどからして,他の地域に比べてB群の人々が多いと推定できるが,全国的に見ればA群の人々の方が多いと見ることも可能であろう。

2 問題は,仮にA群の人々が多数であるとして,A群の人々は自己の考え方をB群の人々に強制できるのか否かである。
 そもそも,自己の個人情報に関する権利は,個々人の権利であるから,自己の個人情報の取扱いに関する限り,個々人の自由に属する。しかし,他人の個人情報の取扱いについては,そうはいかない。A群に属するaさんは,B群に属するbさんが自己の個人情報が住基ネットを通じて流通することに不安を感じているにもかかわらず,bさんに対してbさんの個人情報が住基ネットを通じて流通するようにすることを強制できるのであろうか。
 この問題は,bさんの個人情報に関する権利が,国会の多数決による法律によって奪えない権利なのかどうかつまり,憲法による基本的人権に属するのか否かによって決せられることになろう。


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