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杉並区・住基ネット訴訟 上告理由書から( 5/13) ひっそり暮らす自由と一人で放っておいてもらう権利


 第3 ひっそり暮らす自由と一人で放っておいてもらう権利

1 憲法13条は「すべて国民は,個人として尊重される。生命,自由及び幸福追求に対する国民の権利については,公共の福祉に反しない限り,立法その他の国政の上で,最大の尊重を必要とする。」と規定しているが,この規定は,他人に迷惑をかけない限り,個人がひっそりと暮らす自由を保障しているはずである。特に公職に就くわけでもなく,生活上の利便を強く求めるでもなく,つつましく,ひっそりと暮らす自由は,他人の権利を侵害しない限り,人間である以上認められる権利(基本的人権)であることは疑いない。ひっそりと暮らす自由は,いわば前国家的な権利であり,それは憲法13条の「自由」ないし「幸福追求」の権利として保障されていると考えなければならない。

2 憲法13条が保障していると考えられている人格的利益としてプライバシーの権利は,古典的には「一人で放っておいてもらう権利」と表現されたが,なにゆえに「一人で放っておいてもらう権利」が正当化されるかといえば,それは,上記のような,他人に迷惑をかけない限り,ひっそりと暮らす自由が認められるからこそ,自己に関する情報面で「一人で放っておいてもらう」ことが正当化されるのである。

3 プライバシーの権利は,「一人で放っておいてもらう権利」から「自己情報コントロール権」へと発展してきたといわれるのが一般的であるが,「自己情報コントロール権」という用語では,自由権的側面だけでなく請求権的側面を含むものと理解されがちであり,そのことへの難色も示されることがあるが,基本は自由権的側面であり,それは,上記のひっそりと暮らす自由の一内容としての「一人で放っておいてもらう権利」にほかならない。

 この点については,中島徹教授が鑑定意見書(甲84)5頁で以下のように述べているとおりである。
「ブランダイス裁判官の「一人で放っておいてもらう権利」という定義には,情報の秘匿と自己決定という二つの側面がもともと内在していました。これがのちに,私生活上の秘密を暴露されないといった面に重点を置くいわゆる「情報プライバシー権」と,自分の人生を自分で決める「自己決定権」,そしてその二つの面を併せ持った「情報の自己決定」という意味での「自己情報コントロール権」という観念を生み出すもととなったのです。」
「肝心なことは,The Right to Privacyという語の理解に,情報の秘匿権と自己決定権という両面が本来的に具わっていたという点です。日本では,しばしばプライバシー権の定義について「一人で放っておいてもらう権利から自己情報コントロール権へ」と変化したと説明されます。これはしかし,プライバシー権の理解が質的に変化したということを意味しているのではありません。すでに見てきたように,もともと「一人で放っておいてもらう」ということに含まれていた自己決定の側面が,自分に関する情報についても意識されるようになったということにすぎないのです(ただし,日本では自己決定権と情報プライバシー権を分けて考える傾向があります。それはしかし,たまたまプライバシーを情報とだけ関連づけて理解してきたという日本社会に固有の事情によるもので,本質的な問題ではありません)。」

 また,樋口陽一教授が「<対談>あらためて憲法13条裁判を考える −住基ネット訴訟に関連して」(法律時報79巻11号)(資料3−1)77頁において,次のように述べているとおりである。
「自己情報コントロールという場合の権利性について二通りあると思うのです。放っておいてもらう権利そのものと同じことをいう場面があるわけでしょう。(中略)要するに他者の介入を排除する。これは端的に防御権です。」
「それに,加えて自己情報コントロールということにおいて,自分が言いたいことを登録しておきたい,(中略)それが言いたいつもりだったのでなければ訂正したいという自己表現です。そういう自己表現となると,防御権に尽きないで,手段請求の要素が入ってくると思うのです。」
「むしろ住基ネットの場合には,いちばん古典的で,いちばん教科書的なプライバシー権を,人格的利益のいちばんコアの部分であるとして主張すべきであって,自己情報「コントロール」というと,何かを積極的に要求する話にシフトしていってしまうんじゃないかと思います。これはやめてくれというだけの話というふうに,絞ったほうがいいんじゃないでしょうか。」


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