ホーム > コンピュータ・知財 > プライバシ−・個人情報 >  

杉並区・住基ネット訴訟 上告理由書から( 6/13) プライバシーの理解についての原判決の誤り


 第4 プライバシーの理解についての原判決の誤り

1 原判決は,「個人のプライバシーに係る利益が法的保護に値する人格的利益であり,憲法13条により尊重されるべきものであること,高度情報化社会の今日において個人情報保護の見地からプライバシーに係る利益を発展させた形での自己情報コントロール権が主張されていることが認められるが,プライバシーの法的保護は,みだりに私生活に侵入されたり他人に知られたくない私生活上の事実又は情報を公開されない利益であるということはできるものの,控訴人が主張するプライバシー権という権利は,いまだこれが認められる外延も内包も不明確であり,不確定な要素が多く,その内容としての個人情報の保有及びその収集,処理を制限するよう求める権利を憲法13条から直ちに認めることはできない。」と判示し(30頁,下線は上告人代理人),プライバシーは憲法13条により尊重されるべきであるが,自己情報コントロール権は憲法13条から認めることはできないとしている。
  しかし,前述のように,憲法13条により尊重されるべきプライバシーの根幹は「一人で放っておいてもらう権利」であって,住基ネットにおいては,そのような「一人で放っておいてもらう権利」の侵害が問題になっているのである。つまり,原判決は,プライバシーと自己情報コントロール権につき,両者の内容が全く重ならない別個のものと理解し,前者は憲法13条により尊重されるが後者はそうではないと述べているが,両者の内容は重なっているであり,本件で問題となっている住民の権利は,その重なっている部分に属するものであることを看過しているのである。

2 さらに,原判決は,自己情報コントロール権につき,「いまだこれが認められる外延も内包も不明確であり,不確定な要素が多」いことを理由として憲法上の保障を否定しているが,以下に述べるとおり不当である。
  そもそも第1に,具体的な争訟においては,当該事案に関する限りで権利性が認められるか否かを判断すればよいのであり,外延や内包のすべてが明確に判断されるべき必要性はもともと存在しない。
 第2に,憲法上の権利については,外延や内包が不明確であり,不確定な要素が多いことは通常である。例えば,憲法29条の規定する財産権も外延や内包が明確とはいいがたく,不確定な要素が多い。
 最高裁昭和62年4月22日大法廷判決<昭和59年(オ)第805号>(民集41巻3号408頁は「財産権の種類,性質等が多種多様であ」ると判示しているところ,例えば,種苗法(平成11年法律第43号)による育成者権(19条),半導体集積回路の回路配置に関する法律(昭和60年法律第43号)による回路配置利用権(3条)などが財産権であることは疑いないが,これらは憲法制定後に権利化されたものであり,憲法29条の財産権に当然に該当するのかどうかは明らかではない。
 第3に,原判決が,自己情報コントロール権については,「いまだこれが認められる外延も内包も不明確であり,不確定な要素が多」いと述べているのは,プライバシーについては外延や内包が明確であって,不確定な要素が少ないとの判断が前提である。しかし,実は,プライバシーの外延や内包も必ずしも明確とはいい難いのである。
 例えば,最高裁平成15年9月12日判決<平成14年(受)第1656号>(民集57巻8号973頁)についての杉原則彦調査官の解説(『最高裁判所判例解説民事篇 平成15年度(下)』)においても,「プライバシーとして保護される対象や,いかなる侵害が違法になるかといった点については,なお検討を要する点が多い。」「プライバシー侵害として論じられる事案は,その保護利益の性質も侵害行為の態様も多種多様である。」(485頁)としているとおりである。
 他方,自己情報コントロール権についても,「プライバシー保護と個人データの国際流通についてのガイドラインに関するOECD理事会勧告」(1980年9月),個人情報の保護に関する法律(平成15年5月30日法律第57号),行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律(平成15年5月30日法律第58号)などによって外延や内包は明確になってきているのである。
 もちろん個々の事案により保護が認められるか否かについては不確定な要素が残ることになるが,それはどの分野でも存在することであり,判例の積み重ねにより明確になっていくべきものである。


タイトル
お名前
email
ご感想
ご確認 上記内容で送信する(要チェック


 


   ホーム > コンピュータ・知財 > プライバシ−・個人情報 > 杉並区・住基ネット訴訟 上告理由書から( 6/13) プライバシーの理解についての原判決の誤り