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杉並区・住基ネット訴訟 上告理由書から( 8/13) 住基ネットからの個人情報の流出等についての危惧の根拠


 第6 住基ネットからの個人情報の流出等についての危惧の根拠

1 前述(第2)のように,住基ネット上の自己の個人情報の流出や不適正利用について危惧している人々(B群)と危惧していない人々(A群)が存在するが,B群の人々が有している危惧は,以下に述べるとおり,一定の合理的な根拠が存在するのであり,A群の人々が危惧していないからといって,A群の人々はB群の人々の危惧を解消できるわけでもないし,B群の人々の危惧が現実化してB群の人々の個人情報の流出等があった場合に,その原状回復をA群の人々が行えるわけでもない。

2 まず,住基ネットはコンピュータ・ネットワークの一種であり,コンピュータの性能や通信技術の向上,通信基盤の整備等により,紙ベースの情報処理とは全く比較にならないほど大量・高速の情報処理と情報通信が可能となっている。
  したがって,膨大な本人確認情報が極めて短時間に流出してしまうおそれがあるほか,デジタルデータは複製等が容易であるため,インターネットを通じて広汎に拡散してしまえば,それらの情報をすべて消去することは実際上不可能であり,その結果,半永久的に個人情報データが,数も所有者も特定不能なコンピュータに残ることとなり,およそ当該個人ではコントロール不能な状態に陥る(日本弁護士連合会「住民基本台帳法の一部を改正する法律案についての意見書」・甲30:20頁参照)。
 また,コンピュータ・ネットワークにおいて,大量の情報をネットワーク経由で迅速かつ効率的に処理することができるから,データマッチングによる新たなデータベースの作成等が極めて容易にできる。
 それゆえ,つい先ほどまで,プライバシー権を侵害することなく稼動していたシステムが,次の瞬間にはプライバシー権を侵害するという事態が現実に起こりうるのである(中島徹鑑定意見書・甲84:13頁,17頁)。
 なお,ドイツの連邦憲法裁判所も,コンピュータ・ネットワークの特性を踏まえて,それが個人情報の保護にとって潜在的な危険性を有しているとの認識を前提に,自己情報コントロール権を憲法上の具体的権利であると判断しているところである(中島徹鑑定意見書・甲84:41〜42頁)。

3 そもそも,コンピュータ・ネットワークにおいて完全なセキュリティを確保することが不可能であることは,セキュリティの専門家の間では常識である。
 そして,住基ネットにおいては,膨大な数のコンピュータが接続されることになるが,それらのすべてについて,十分なセキュリティを確保することは実際上ほとんど不可能である。さらに,住基ネットに接続されている国や地方公共団体のコンピュータが庁内LANを介してインターネットに接続されているが,CS(コミュニケーション・サーバ)や庁内LANなどに利用されていると思われるOS(オペレーション・システム)であるマイクロソフト社のWindowsにセキュリティ・ホールがしばしば見つかっていることなどからすれば,インターネットを通じての外部からの侵入の危険をある程度覚悟せざるをえない。
 また,住基ネットにおいては,地方自治体共同のネットワークであることに起因する限界として全体の統括責任者が不存在であり,セキュリティについての統括責任者も不明確であって,セキュリティ対策が強力には実施されにくい。そのほか,住基ネットに接続されているコンピュータの利用者について生体認証システム等が導入されていないことから,実際の操作者を捕捉できないなど,違法な利用・提供を捕捉するための措置が不十分である。その他,愛媛県愛南町の事例(住民情報の流出に関するお詫びとお知らせ・甲86)のように委託業者を通じての流出の危険は依然として大きい。

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