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第4点 憲法の最高法規性並びに地方自治体が憲法を尊重擁護する義務及び自らの判断に基づいて法令を執行する権限の解釈についての原判決の誤り(憲法98条・99条及び憲法92条・94条解釈の誤り) 第1 憲法の最高法規性と憲法尊重擁護義務 1 原判決は,「市町村のみならず,都道府県や国の行政機関は,当該法律が違憲又は違憲の疑いがあると考えたとしても,それが改廃されるか,又は裁判所が法令審査権(憲法81条)に基づいて違憲であるとした判決が確定した場合でない限り,唯一の立法機関である国会が制定した法律を誠実に執行しなければならない」として,「ある市町村が,非通知希望者に係る本人確認情報の送受信により当該個人の憲法上保障された権利が侵害され,又は侵害されるおそれがあると判断したとしても,通知希望者のみの本人確認情報を都道府県知事に送信し非通知希望者のそれを送信しないという事務処理を行うことは許されない」とした(28頁)。 2 しかし,この判示は,「この憲法は,国の最高法規であつて,その条規に反する法律,命令,詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は,その効力を有しない。」として憲法の最高法規性を定めている憲法98条の解釈を誤っているものである。なぜなら,憲法98条は「裁判所が法律を違憲と判断することによって,それ以後においては法律の効力が失われる」とは規定していないからである。 3 問題となる場面を整理するために,地方自治体がある法律を執行する場合につき,a時点において,当該法律の執行行為が行われ,b時点において,当該法律の執行行為に関し裁判所が当該法律の合憲性についての判断を行ったとする。これについては以下の4つの場合が存在しうる。 a時点 b時点 地方公共団体 裁判所 A 当該法律を合憲と判断して行為した A1 当該法律を合憲と判断した A2 当該法律を違憲と判断した B 当該法律を違憲と判断して行為した B1 当該法律を合憲と判断した B2 当該法律を違憲と判断した Aについては,まず,A1の場合は特に問題はない。そして,A2の場合は,当該法律が違憲無効となるのはb時点以後ではなく,a時点において既に違憲無効である。 Bについては,まず,B2の場合は特に問題はない。そして,この場合も,当該法律が違憲無効となるのはb時点以後ではなく,a時点において既に違憲無効である。問題となるのはB1の場合であるが,この場合は地方自治体が誤った判断をしたことになり,それに基づく責任を地方自治体が負えばすむだけである。もしも地方自治体が違憲と判断することを一切許さないとすれば,本来問題ないはずのB2の場合についても違憲と判断することを許さないことになって不当な結果を招来することになる。 原判決のようにb時点において裁判所が違憲と判断した場合以外は地方自治体は法律について違憲判断ができないとすれば,本来違憲である法律がb時点以前においては効力を有することになってしまうが,それは憲法98条が予定する事態ではありえない。 4 さらに,憲法99条は公務員に憲法尊重擁護義務を課することによって憲法の最高法規性が確保されることを企図しているはずであり,公務員が適切な憲法判断を行うことにより違憲の法律が執行される事態を可及的に避けようとしているはずである。したがって,本来問題ないはずの上記B2の場合についても違憲判断をすることを許さないことになる原判決の判示は憲法99条の解釈を誤ったものであり,不当な結果を招来するものである。 |
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