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杉並区・住基ネット訴訟 控訴審・第4準備書面から(4/6) プライバシー(自己情報コントロール権)の権利性について(住基ネットに関する裁判例)

 ◎ 大阪地裁平成18年2月9日判決(判時1952号127頁,判タ1207号91頁,http://www.courts.go.jp/)
「現代の情報社会において,個人の私生活上の自由や人格的自律を保障するためには,個人に関する情報について,行政機関等から不当に収集されたり,利用されたり,他に提供されたりしないように保護することにとどまらず,行政機関等が不当に個人情報を保有,利用しているような場合には,その情報が他の行政機関等へ提供されることを差し止めたり,その情報の抹消を求めたりする権利も保障される必要がある。」「保護の対象として中心となるのは,人格の生存や発展に不可欠な情報であり,それに直接かかわらない,外的事項に関する個人情報については,行政機関等が正当な目的で,正当な方法により収集,利用,他への提供しても,プライバシー権の侵害とはならないと解される。自己情報コントロール権は,このような内容の権利として憲法上保障されているというべきである」(判時1952号140頁第3段)

 ○ 千葉地裁平成18年3月20日判決(乙18)(http://www.courts.go.jp/)
「情報処理技術の発展に伴い,多くの分野において大量の個人情報が収集等されている状況下においては,個人情報が不当な目的のために収集されたり,想定された本来の目的以外に使用されるなどすると,著しく私生活の平穏を害するなど不都合な結果を招くおそれがあるのであって,かかる不都合を防止するためには,みだりに個人情報を収集・管理・利用されない利益を法的にも保護に値する個人の利益として認めるのが相当である。そこで,自己に関する一定の情報について,みだりに収集等されない権利は,人格権の一内容として憲法13条により保護される権利と解するのが相当である。」(36頁)

 ○ 東京地裁平成18年4月7日判決(乙15)
「憲法13条は,個人の私生活上の自由の1つとして,個人の同意なく,みだりに個人情報を利用提供されない自由を保障しているというべきであり,国家機関が正当な理由もなく,個人の同意なく,みだりに個人情報を利用提供することは同条に反して許されないというべきである。」(26頁)

 ○ 和歌山地裁平成18年4月11日判決(未公刊)
「現代社会においては,個人の私生活上の平穏,人格的自律を保障するためには,プライバシーの権利の一態様として,個人に関する情報につき,単に,行政機関等から不当に収集,利用されたり,そのような情報が他に提供されたりしないように保護される必要があるにとどまらず,他の行政機関等に提供されることを差し止めたり,不当に蓄積,保存されている個人情報の抹消を求める権利も保障される必要があるというべきである。」(38頁)

 ◎ 東京地裁平成18年7月26日判決(乙25)
「このような社会状況においては,情報提供の相手方,利用方法等に関する本人の合理的な期待が保護されるべきであり,前記アのプライバシ一に係る利益にも,個人情報を本人の合理的な期待に反して開示提供されない利益が含まれると解すべきである。」「したがって,本人確認情報が予定された開示対象及び利用範囲を逸脱してみだりに開示されないという利益は,法的な保護に値するものというべきである(最高裁判所平成15年9月12日第二小法廷判決・民集57巻8号973頁参照)。原告らの主張する自己情報コントロール権も,基本的には,同様の趣旨をいうものと理解され,その限度において理由があるというべきである。」(68〜69頁)

 ◎ 横浜地裁平成18年10月26日判決(甲75)
「憲法13条は,すべての国民が個人として尊重されることを保障しているが,個人として尊重されるためには,私生活上の自由を保障することが不可欠であるから,『私生活をみだりに干渉されない権利』としてのプライバシー権は,憲法13条により保障されているというべきである。さらに,高度に情報化された現代社会においては,インターネット等を通じた個人情報の収集,利用,提供により個人の尊厳が脅かされるおそれがある。そうすると,個人の尊厳を保障するためには,プライバシー権を単に『私生活をみだりに干渉されない権利』と解するだけでは足りず,『みだりに自己の情報を収集,利用,提供されない権利』(自己情報コントロール権)をも含む権利であると解するのが相当であり,このような自己情報コントロール権は,憲法13条により保障されているものというべきである。」(35頁)

 ◎ 名古屋高裁金沢支部平成18年12月11日判決(甲74,乙27)
「住基ネット上の本人確認情報に関して上記のような違憲状態が生じた場合において,その原因が上記アの観点からの住基ネット規定によるものであるときには,同規定は憲法13条により無効となり,本人確認情報に係る住民は,人格権としてのプライバシー権に基づく妨害排除請求権又は妨害予防請求権によりその差止め等の救済(憲法13条が国民に対して保障している人格権としてのプライバシー権に基づき,公権力による個人情報の提供を禁止し,公権力が保有する個人情報の削除を求めること)を求めることができるものというべきである。被控訴人ら主張のプライバシー権(自己情報コントロール権)は,上記の趣旨と範囲において,これを肯定することができる。」(37頁)

 7 被控訴人は,阪本教授や松井教授の論文を論拠として引用しているが,いずれも,極めて古い時期の論文であり,個人情報が広く保護されるようになった時代には不適切である。
   つまり,坂本昌成「『人格権』に基づく自己情報の訂正請求権」が掲載されているジュリスト829号は1985年2月1日号であり,この論文は20年以上前のものである。また,阪本昌成「プライバシーと自己決定の自由」が掲載されている樋口陽一編『講座憲法学3』は,1994年6月の発行であり,これも,13年も前の論文である。
 さらに,松井茂記「プライヴァシーの権利について」が掲載されている法律のひろば41巻3号は1988年3月号であり,これも約20年前のものである。

 8 そのほか,被控訴人は長谷部教授の見解を引用しているが,それは,「自己情報コントロール権として把握されるプライバシーには本質的な限界がある」というものであるところ,それはプライバシーに限界があることを述べているものである。憲法上のいかなる権利にも何らかの限界が存することは控訴人も大阪高裁判決も否定しないところであり,被控訴人の批判は的を射ていないと言わざるをえない。


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