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杉並区・住基ネット訴訟 控訴審・第4準備書面から(6/6) 本人確認情報の要保護性

 4 さらに,中島徹鑑定意見書(甲84)が,「住基ネットにおける個人情報は,氏名,生年月日,性別,住所の本人確認情報と住民票コードおよび変更情報ですが,いずれも個人識別情報に該当することについては争いがありません。これらは,いわゆる索引情報として,プライバシー保護が要請される度合いは低いという指摘もあります。しかし,それ自体は『索引』であっても,それがネットワーク上でさまざまな情報と結合されれば,センシティブ情報への入り口となりうるわけですから,基本4情報の性格だけを独立に論じることは,必ずしも適切ではありません。最高裁も,学生の氏名や学籍番号等の索引情報について『プライバシーに係る情報として法的保護の対象となる』ことを認めています・・・。これは,氏名や学籍番号などが講演会参加者を特定する情報であることを考慮に入れた実質的な判断です。逆にいえば,本人確認情報の性質だけを切り離して要保護性を論じることは,・・・,極めて形式的な思考といわなければなりません。」(6頁)と述べているように,「本人確認情報の性質だけを切り離して要保護性を論じること」は「形式的」な思考であって妥当ではないのであり,江沢民主席講演会事件上告審判決も「本件個人情報は全体としてプライバシーに当たる情報である」と「実質的」に判断しているのである。
 そして,中島徹鑑定意見書が「住基ネットにおいて本人確認情報を利用することがもつ意味」(21頁以下)につき,「こうした制度や技術の一体性を念頭に置いた実質的思考(B判決)と,法制度や技術を個別に捉え,その枠内で完結させて論じる形式的思考(@・A判決)の違いが,@・A判決とB判決の間における結論の違いを導いたのです。」(22頁)と述べているように,大阪高裁判決が,名古屋高裁判決・名古屋高裁金沢支部判決と異なっているのは,形式的判断に陥らなかった点にあるわけである。

 5 そのほか,被控訴人は「変更情報は身分関係の変動等を端的に推知させる情報ではない」と主張しているが,そもそも,要保護性の判断にあたって,身分関係の変動等を「端的」に推知させることは不可欠ではない。「端的」でなくても,推知させるものであれば,要保護性は高くなるのである。
 被控訴人は,「例えば,婚姻により姓が変わった場合であれば,修正を行ったという単なる外形的事実を示す「住民票の記載の修正を行った旨」の記載に加え,「職権修正等」,「事由が生じた年月日」のみが「変更履歴」として記載され,これが都道府県知事に通知,提供されるにすぎず,婚姻,離婚等の具体的事由が通知されることはない」と主張しているが,まず第1に,「住民票の記載の修正を行った旨」・「職権修正等」の記載が行われている住民票は,住民票全体の中で少数であり,したがって,注意を惹きやすいものである。
 第2に,「住民票の記載の修正を行った旨」・「職権修正等」の記載は,転居の記載などと異なり,身分関係の変動を推知させるものである。
 第3に,身分関係の変動としては,婚姻,離婚,養子縁組,養子離縁及び認知などがあるところ,その中で圧倒的に数が多いものが婚姻・離婚であるから,「住民票の記載の修正を行った旨」・「職権修正等」の記載は,婚姻・離婚が行われた蓋然性が高いことを示すものである。
 さらに言えば,「住民票の記載の修正を行った旨」・「職権修正等」・「事由が生じた年月日」の記載は,住民票記載の情報以外の他の情報と結びついて身分関係の変動を推知させることがあるし,また,「住民票の記載の修正を行った旨」・「職権修正等」・「事由が生じた年月日」の記載を端緒として他の情報を入手することにより身分関係の変動を推知できるようになることもある。
 したがって,「住民票の記載の修正を行った旨」・「職権修正等」・「事由が生じた年月日」についての情報の要保護性を軽視するのは誤りである。


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