ホーム > コンピュータ・知財 > プライバシ−・個人情報 >  

杉並区・住基ネット訴訟 上告理由書から( 9/13) 住基ネットからの個人情報の流出等についての危惧の根拠

4 住基法別表記載の事務に関しては,その大半が許認可等に関する事務であつて総務省令で定めるものとされ,住民基本台帳法別表第一から別表第五までの総務省令で定める事務を定める省令(平成14年2月12日総務省令第13号)では,許認可の申請等の受理又はその申請に係る事実についての審査又はその申請に対する応答などとされている例が大半である。
 そのため,許認可事項においては,その許認可の審査過程で収集した個人情報と本人確認情報が結合されることとなるし,試験や資格審査などにおいては,個人の成績や処分歴と本人確認情報が結合されることとなる。
 特に,許認可の審査にあっては,申請に係る事実について,詳細な個人情報が提供される場合があり得るところ,審査基準において「相当でない場合」などといった一般的基準が含まれる例は多々ある。許認可の審査においては,行政機関が,その専門的知見から,相当か不相当かを判断するのが行政機関の役割となっており,自由裁量として,判断されている例が多数あることは周知の事実である。
 それゆえ,行政機関内部で保有する別の個人情報データファイルとのデータマッチングをすることにつき,その相当性判断に必要という理由で安易な拡大解釈が行われ,結果的にそれが事務の目的の範囲内とされてしまうといった事態が生じることは容易に想定できる。その場合,住民票コードを検索キーとして利用することは,住基法30条の34の違反とはならない。
 したがって,各行政機関内部でのデジタルデータとしての個人情報の結合は,本人確認情報,特に住民票コードをマスターキーとして,1つ1つ着実に行われていき,消去されない従前の情報と次の新たな別の個人情報が結合して,一人ひとりの経歴さらには人格や思想を推測させる情報も蓄積されていくことが想定される。
 その結果,現行法制下では,今後,行政事務の効率化のうえでこの上なく便利な制度として,活用されていき,個人情報の結合により,当該個人が行政機関の前に丸裸にされていく危険が時間を経過するほど高まっていくのである。

5 さらに,住基ネットにおいては,@使用済み本人確認情報の消去義務が規定されていないこと,A住民本人に対して,いかなる行政機関へ本人確認情報が通知されたか通知する義務が規定されていないこと,B住基法30条の7第4項から7項までの規定では,総務省令や市町村及び都道府県の条例の規定の仕方によっては,利用目的が不当に拡大しかねないこと,C本人確認情報の目的外利用があるか否かについて,住基法上,捕捉する手段が設けられていないこと,D第三者機関による監視・監督の制度が存在しないことなどを指摘できる。
  それゆえ,住民や第三者機関による監視監督はなされず,行政内部での処理について,自らに都合のよい解釈で利用範囲が拡大しても,偶然に期待する以外にその不正使用などが発覚することはないし,許認可権限を有する行政機関の審査の過程での相当性判断において,多数の個人情報が結合されていくことが現実に起きていても何ら不思議ではない。
 住基ネットが潜在的に持っている能力(データマッチング,名寄せ)を行政機関が発揮させようとする動機は,「のどから手が出るほどひっつけたいと思う」(第145回衆議院地方行政委員会議録第12号・甲31:28頁)などと,国会答弁においてすら明示的に指摘されているところからしても,本人確認情報,特に住民票コードを活用しての個人情報の結合が現実に行われていることは容易に推認できるところである。
 以上のような法制度上の欠陥から,外部への情報漏えいのみならず,利用範囲の不当な拡大や目的外利用,さらには上記のような目的内利用の安易な拡大解釈を通じて,データマッチングが行われ,住民票コードをいわばマスターキーのように使って名寄せすることにより,個人情報が集約され,個人が行政機関の前に丸裸にされる危険が現に存在しているのである。

6 そもそも,個人情報には,一旦流出・漏えい等があれば,元の状態に戻すことができないという不可逆性があるため,事後的な措置により原状回復を図ることが不可能もしくは著しく困難である。それゆえ,事後的な措置よりも,流出・漏えい等を事前に可及的に避けようとすることは合理的かつ自然なことであるから,B群の人々が住基ネットを通じた自己の個人情報の流出等を避けようとすることは是認されるべきである。


タイトル
お名前
email
ご感想
ご確認 上記内容で送信する(要チェック


 


   ホーム > コンピュータ・知財 > プライバシ−・個人情報 > 杉並区・住基ネット訴訟 上告理由書から( 9/13) 住基ネットからの個人情報の流出等についての危惧の根拠