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著作権法違反刑事事件 量刑例 H18.12.13 京都地裁(プログラムの配信)

H18.12.13 京都地裁 判決 <平16(わ)726号>
著作権法違反幇助被告事件 〔ウィニー著作権法違反幇助事件〕
 ファイル共有ソフトを開発し、自己のホームページ上で公開して提供した行為が、著作権法違反行為の幇助犯を構成するとされた事例

出典 判タ 1229号105頁

主文

 被告人を罰金150万円に処する。
 その罰金を完納することができないときは,金1万円を1日に換算した期間,被告人を労役場に留置する。
 訴訟費用は被告人の負担とする。 
 
理由

 (罪となるべき事実)
 被告人は,送受信用プログラムの機能を有するファイル共有ソフトWinnyを制作し,その改良を重ねながら,自己の開設した「Winny Web Site」及び「Winny2 Web Site」と称するホームページで継続して公開及び配布をしていたものであるが,
第1 甲が,法定の除外事由なく,かつ,著作権者の許諾を受けないで,平成15年9月11日から翌12日までの間,甲方において,別表記載の各著作権者が著作権を有するプログラムの著作物である「スーパーマリオアドバンス」ほか25本のゲームソフトの各情報が記録されているハードディスクと接続したパーソナルコンピュータを用いて,インターネットに接続された状態の下,上記各情報が特定のフォルダに存在しアップロード可能な状態にあるWinnyを起動させ,同コンピュータにアクセスしてきた不特定多数のインターネット利用者に上記各情報を自動公衆送信し得るようにし,上記各著作権者が有する著作物の公衆送信権を侵害して著作権法違反の犯行を行った際,これに先立ち,同月3日ころ,Winnyが不特定多数者によって著作権者が有する著作物の公衆送信権を侵害する情報の送受信に広く利用されている状況にあることを認識しながら,その状況を認容し,あえてWinnyの最新版である「Winny2.0 β 6.47」を被告人方から前記「Winny2 Web Site」と称するホームページ上に公開して不特定多数者が入手できる状態にした上,同日ころ,上記甲方において,同人にこれをダウンロードさせて提供し,
第2 乙が,法定の除外事由なく,かつ,著作権者の許諾を受けないで,同月24日から翌25日までの間,同人方において,ユニバーサル・シティ・スタジオズ・エルエルエルピーが著作権を有する映画の著作物である邦題名「ビューティフル・マインド」及びディズニー・エンタープライゼズ・インクが著作権を有する映画の著作物である邦題名「アンブレイカブル」の各情報が記録されているハードディスクと接続したパーソナルコンピュータを用いて,インターネットに接続された状態の下,上記各情報が特定のフォルダに存在しアップロード可能な状態にあるWinnyを起動させ,同コンピュータにアクセスしてきた不特定多数のインターネット利用者に上記各情報を自動公衆送信し得るようにし,上記各著作権者が有する著作物の公衆送信権を侵害して著作権法違反の犯行を行った際,これに先立ち,同月13日ころ,Winnyが不特定多数者によって著作権者が有する著作物の公衆送信権を侵害する情報の送受信に広く利用されている状況にあることを認識しながら,その状況を認容し,あえてWinnyの最新版である「Winny2.0 β 6.6」を上記被告人方から前記「Winny2 Web Site」と称するホームページ上に公開して不特定多数者が入手できる状態にした上,同日ころ,上記乙方において,同人にこれをダウンロードさせて提供し,
もって,それぞれ,前記甲及び乙の前記各犯行を容易ならしめてこれを幇助したものである。
・・・
 (量刑の理由)
 本件は,著作権法違反の正犯者ら2名が,それぞれ著作権者の許諾を得ずに,著作権の対象となる著作物であるゲームソフトや洋画の各情報を,インターネット利用者に対して自動公衆送信しうる状態にして,上記各著作物の著作権者が有する公衆送信権を侵害する実行行為に及ぶに先立ち,被告人が自己の開設するホームページ上にファイル共有ソフトであるWinnyを公開しダウンロード可能な状態においてインターネットを利用する不特定多数の者に提供して,Winnyを用いて上記実行行為に及んだ正犯者ら2名をそれぞれ幇助したという著作権法違反幇助の事案である。
 被告人は,ファイル共有ソフトの一つであるWinnyを開発,公開することで,これを利用する者の多くが著作権者の承諾を得ないで著作物ファイルのやりとりをし,著作権者の有する利益を侵害するであろうことを明確に認識,認容していたにもかかわらず,Winnyの公開,提供を継続していたのであって,このような被告人の行為は,自己の行為によって社会に生じる弊害を十分知りつつも,その弊害を顧みることなく,あえて自己の欲するまま行為に及んだもので,独善的かつ無責任な態度といえ非難は免れない。また,正犯者らが著作権法違反の本件各実行行為に及ぶ際,被告人が公開,提供していたWinnyが,正犯者らの本件各実行行為にとって重要かつ不可欠な役割を果たしたこと,Winny ネットワークにデータが流出すれば回収等も著しく困難であること,Winnyの利用者が相当多数いると認められること等からすれば,被告人のWinnyの公開,提供という行為が,本件の各著作権者が有する公衆送信権に対して与えた影響の程度も相当大きく,正犯者らの行為によって生じた結果に対する被告人の寄与の程度も決して少ないものではない。
 もっとも,被告人はWinnyの公開,提供を行う際に,インターネット上における著作物のやりとりに関して,著作権侵害の状態をことさら生じさせることを企図していたわけではなく,著作権制度が維持されるためにはインターネット上における新たなビジネスモデルを構築する必要性,可能性があることを技術者の立場として視野に入れながら,自己のコンピュータプログラマーとしての新しいP2P技術の開発という目的も持ちつつ,Winnyの開発,公開を行っていたという側面もあり,被告人は本件行為によって何らかの経済的利益を得ようとしていたものではなく,実際,Winnyによって直接経済的利益を得たとも認められないこと,何らの前科前歴もないことなど,被告人に有利な事情も存する。
 以上,被告人にとって有利,不利な事情を総合的に考慮して,被告人には主文のとおりの罰金刑に処するのが相当であると判断した。
 (裁判長裁判官・氷室眞,裁判官・武田正,裁判官・八槇朋博) 

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