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著作権法違反刑事事件 量刑例 H 2. 3.29 大阪地裁堺支部(ゲーム機のプログラムを複製した基板の販売)

H 2. 3.29 大阪地裁堺支部 判決 <昭58(わ)81号 ・ 昭58(わ)76号>
著作権法違反被告事件

主文

 被告人有限会社D及び同株式会社Fを、いずれも、罰金三〇万円に、同株式会社Kを罰金二〇万円に処する。
 被告人甲及び同丙を、いずれも、懲役三月に、同乙を懲役四月に処する。
 この裁判確定の日から、被告人甲及び同丙については各一年間、同乙については二年間、右各刑の執行を猶予する。

理由

 (罪となるべき事実)
 第一 被告人有限会社D(代表取締役甲)はゲーム機械の製造販売を目的とする会社、同甲は同会社の代表取締役であるが、同甲は丁と共謀の上、被告人有限会社Dの業務に関し、法定の除外事由がないのに、任天堂株式会社(以下任天堂という)が映像と音声とについて著作権を有するテレビゲーム機ドンキーコング・ジュニアのコンピューターシステム(基板)の記憶装置に収納された同ゲーム機のソフトウエア・プログラムを複製し、その基板を製造して販売しようと企て、昭和五七年八月一八日頃から同年一一月二七日頃までの間、神奈川県川崎市川崎区〈住所略〉株式会社○○産業所など三箇所において、右ゲーム機の複製基板六八八六台位を製造した上、同年八月一八日頃から同年一二月二九日頃までの間、前後一五一回にわたり、大阪市北区〈住所略〉××商事株式会社など一九箇所において同社など一九名に対し、右基板六八七一台を合計四億五六二五万八〇〇〇円で販売し、
 第二 被告人株式会社F(代表取締役乙)は娯楽機器の製造販売を目的とする会社、被告人株式会社K(代表取締役丙)は娯楽機器の売買を目的とする会社、被告人乙は被告人株式会社Fの代表取締役及び被告人株式会社Kの取締役、被告人丙は被告人株式会社Kの代表取締役及び被告人株式会社Fの取締役であるが、被告人乙及び丙は共謀の上、それぞれ、被告人乙は被告人株式会社Fの、被告人丙は被告人株式会社Kの各業務に関し、法定の除外事由がないのに、任天堂が映像と音声について著作権を有するテレビゲーム機ドンキーコング・ジュニアのコンピューターシステム(基板)の記憶装置に収納された同ゲーム機のソフトウエア・プログラムを複製し、その基板を製造して販売しようと企て、同年八月二五日頃から同年一一月九日頃までの間、東京都東久留米市〈住所略〉△△電子株式会社など三箇所において、右ゲーム機の複製基板五〇五七台を製造した上、同年八月二五日頃から同年一二月二三日頃までの間、前後三二五回にわたり、前記××商事株式会社など五九箇所において同社など五九名に対し、右基板五〇五一台を合計三億〇六八二万二〇〇〇円で販売し、
 もって何れも任天堂の右著作権を侵害したものである。

 (法令の適用)
 被告人甲の判示第一の所為並びに同乙及び同丙の判示第二の所為はいずれも、包括して、昭和六〇年法律第六二号附則五項により同法による改正前の著作権法一一九条、刑法六〇条に該当し、被告人甲の右所為は同被告人が被告人有限会社Dの代表者としてその業務に関し犯したものであり、同乙の右所為は同被告人が被告人株式会社Fの、同丙の右所為は同被告人が被告人株式会社Kの各代表者としてその各業務に関し犯したものであるから、右各被告人会社については、いずれも右改正前の著作権法一二四条一項により、同法一一九条所定の罰金刑を科することとし、被告人甲、同乙及び同丙についてはいずれも所定刑中懲役刑を選択し、所定刑期等の範囲内で、被告人有限会社D及び同株式会社Fをいずれも罰金三〇万円に、同株式会社Kを罰金二〇万円に、被告人甲及び同丙をいずれも懲役三月に、同乙を懲役四月に処し、情状により、刑法二五条一項一号により、この裁判確定の日より、被告人甲及び同丙については各一年間、同乙については二年間、右各刑の執行を猶予することとし、訴訟費用については刑訴法一八一条一項但書により、これを被告人らに負担させない。
 (情状)
 一 被告人甲について
 既に第一項で述べたごとく、同被告人はドンキーコング・ジュニアのコピー基板の複製行為に着手する以前から、死亡した丁が同様なテレビゲーム機のコピー物を無断作成して販売していることを知りつつ、同人の依頼を受けてこれを補佐してきたものであり、本件の犯行も計画的且つ大規模なものであるといわなければならない。ただ右犯行は、これも同項で指摘したように、丁を主犯とするものであって、被告人甲は丁から求められるままに、従たる役割を演じたものと解する。同被告人が被告人有限会社Dの代表者に就職したのも丁の要請によるものであった。而して被告人有限会社Dは本件後程なくして倒産し、いまでは実質的に存在しないのに等しく、同甲もこの業界から離脱して平均的市民の生活に復していること、前科がないこと、本件の審判が予想以上の長期にわたることを余儀なくされたのは、被告人とは直接の係わり合いのない任天堂と池上との間の民事上の紛争の影響を受けたものであって、その間同甲の法的地位に生じた不安定には本件量刑上配慮すべきものがあること、侵害された著作権が結果的に映画の著作権のみであって、プログラムの著作権については著作権者を明らかにすることができなかったこと、その他の事情を右の刑の理由とした。
 二 被告人乙及び同丙について
 右両被告人の共同関係は、刑事法的には、第三項に認定したとおりであるが、経済的ないし本件犯行に至った実質的側面では、両者の間において、被告人株式会社Fを介して同乙が同丙ないし同株式会社Kに対してなした強力な管理支配が特徴的である。これによって、後二者は前者の一部門とその名目上の代表者の地位にあったということができる。ドンキーコング・ジュニアに先立つ幾つかのテレビゲームのコピー基板の無断製造、販売についても被告人乙と同丙とは共同してきたが、次第に同乙の経済的優越が意識されるようになり、両者の間に不協和音が生じていたものであるところ、本件は同乙がそのような状態を意に介することなく、ヒット商品のコピーと販売を強行し、同丙がこれに追随したものである。そうではあるが、両被告人とも反省の念を明らかにしており、同乙は現在でも当時と同じゲーム機業界に留まっているが、陳謝文を業界紙に掲載するなどして、改悛の情を認めることができる。その他、被告人甲について述べたように、本件審判が長期化したこと、映画の著作権の侵害は明らかであるが、プログラムの著作権の侵害については著作権者の証明が存しないことなどが、右の各量刑の主たる事情である。
 (裁判官 橋本喜一)

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