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掲示板への投稿 平成14年 4月15日 東京地裁 判決

平成14年 4月15日 東京地裁 判決 <平13(ワ)22066号>
著作権侵害差止等請求事件
(一部認容、一部棄却、控訴)

要旨
インターネットのホームページ上の掲示板に投稿した文章の一部を転載して書籍を出版した行為について、一投稿者の著作権に基づく書籍の出版の差止めおよび損害賠償金の支払を求める請求が認容された事例

裁判経過
控訴審 平成14年10月29日 東京高裁 判決 平14(ネ)2887号・平14(ネ)4580号

出典
裁判所サイト、判タ 1098号213頁、判時 1792号129頁、ウエストロー・ジャパン

評釈
井奈波朋子・著作権研究 30号199頁

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   (3)  上記認定した事実を基礎に著作物性を判断する。
 ア  原告各記述部分は、その表現及び内容に照らして、後記イの原告各記述部分を除いたその余の部分については、筆者の個性が発揮されたものとして、「思想又は感情を創作的に表現したもの」といえるから、著作物性が認められる。
 なお、被告森拓之事務所及び被告Lは、原告各記述は、それらに対応する質問又は回答と組み合わさって初めて価値が生ずるものであり、単独では価値がないから、原告各記述には著作物性が認められない旨主張する。しかし、言語の作品について、情報としての価値があるか否かは、思想及び感情の創作的表現であるか否かの判断に影響を与えるものということはできないから、同被告らの上記主張は失当である。
 また、被告森拓之事務所及び同Lは、本件掲示板への書き込みは匿名ですることも可能であるが、匿名で書き込みをした者は、自らが書き込んだ文章に対して責任を負うことはないのであるから、上記文章についての著作権を認める合理性はない旨主張する。匿名による著作物の公表であっても、著作物性を肯定する妨げにならないことは、著作権法 上明らかであるから、同被告の上記主張は失当である。
 もとより、インターネットにおける掲示板上に書き込んだ投稿文章であっても、著作物性の成否に関する前記の判断基準に何ら消長を来すものではない。
 イ これに対して、原告各記述部分のうち、以下の部分は、@文章が比較的短く、表現方法に創意工夫をする余地がないもの、Aただ単に事実を説明、紹介したものであって、他の表現が想定できないもの、B具体的な表現が極めてありふれたもの、として筆者の個性が発揮されていないから、創作性を否定すべきである。
・・・
   (4)  以上のとおりであって、原告各記述部分は、前記(2)イで示した原告各記述部分を除いたその余の部分には著作物性が認められる。そうすると、本件書籍を著作、出版、販売する被告らの行為は、原告らが著作権を有する部分について、原告らの複製権を侵害する行為となる。
 3  (争点(3)、(4))被告光文社には、著作権侵害について過失があるか。被告らは、本件書籍を著作、出版、販売することについて、原告らの承諾を受けたか。権利濫用に当たるか。
   (1)  被告光文社は、本件出版契約において、被告森拓之事務所から、「被告森拓之事務所は、本著作物が他人の著作権その他の権利を侵害しないことを保証する。」との保証を得ていること、及び原告らは、本件掲示板に書き込みをする際、ハンドルネームを表記してあるだけであって実名を明らかにしていないため、原告らの許諾の有無を調査することは極めて困難であることから、被告光文社には、著作権侵害についての過失がない旨主張する。
 しかし、同被告主張は以下のとおり失当である。すなわち、被告光文社が、被告森拓之事務所との間に、上記のような保証を内容とする契約を締結していても、原告らが転載を許諾したか否かを調査、確認する義務を免れるものではないというべきであり、また、原告らが本件掲示板上にハンドルネームしか表示しておらず、原告らに直接に確認をすることが困難であるとしても、被告森拓之事務所に対して、原告らから許諾を得たことを示す資料の提供を求めるなどして原告らの許諾の有無を確認することは可能である。ところが、弁論の全趣旨によれば、被告光文社は、原告らの許諾の有無について全く調査、確認をしていないことが認められるから、被告光文社に著作権侵害について過失がないということはできない。
   (2)  被告森拓之事務所及び同Lは、本件掲示板へ書き込みをする者は、同掲示板へ書き込みをした内容について著作権を主張しないという暗黙の了解があった旨主張する。しかし、本件全証拠によっても上記のような承諾があったことを窺わせる事実を認めることはできないから、同被告の上記主張は失当である。
   (3)  被告森拓之事務所及び被告Lは、原告らは、本件掲示板を無料で閲覧して情報を得ていながら、自己が書き込みをした文章については著作権を行使するのは権利の濫用であって許されないと主張する。確かに、本件掲示板は、投稿の内容を無料で閲覧することができ、質問に対する回答を無料で入手することができるが、そのようなことを前提としても、なお、被告らが、原告らの著作物を、原告らに無許諾で複製、出版したことについて、原告らが著作権に基づく請求をすることが権利の濫用に当たり許されないということは到底できない。同被告らの上記主張は失当である。
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