ホーム > コンピュータ・知財 > 著作権 > |
平成14年10月29日 東京高裁 判決 <平14(ネ)2887号 ・ 平14(ネ)4580号> −−−−− (続き) (3) 上記(1)で述べた解釈に照らすと,原告各記述部分は,それ自体としてみても,原判決が著作物性を否定した部分も含め,いずれも,程度の差はあれ記述者の個性が発揮されていると評価することができるから,著作物性を認めるのが相当である。この点において,当裁判所は,原判決と判断を異にする。 (4) 本件各転載文は,一部を省略したり,順序を変えたり,接続詞など細部を変えたりした部分はあるものの,基本的には,原告各記述部分の表現を変えずにほとんどそのまま複製したものであり,そのいわゆるデッドコピーに近いものであると評価すべきものであることは,別紙原告記述及び転載文一覧表から明らかである。 (5) 以上を前提に,原告各記述,それに対応する,原告各記述部分,本件各転載文を対比した場合,本件各転載文中の多くは,全体として,それに対応する原告各記述の複製として評価し得るものであり,少数(例えば,上記一覧表の2−(5)など)は,原告各記述全体に対する割合が小さすぎるため,原告各記述全体の複製として評価することはできないものの,対応する原告各記述部分の複製として評価することができるというべきである。 (6) 上述したところによれば,控訴人らが本件書籍を著作,出版,販売した行為は被控訴人らの複製権を侵害する行為であるというべきである。本件書籍の出版,発行等の差止めを求める被控訴人らの請求には理由があり,これを認容した原判決(主文第1,2項)は相当である。 (7) 控訴人らは,原告各記述部分のようなインターネット上の掲示板への書込みの著作物性について,@インターネット上の掲示板への書込みは全世界において毎秒単位で膨大な数がなされ,しかも,随意に消去されているため,その全容を把握することが困難であること,Aインターネット上の書込みを利用するために,書込みをした者の承諾を得ようとしても,書き込みが多くの場合匿名でなされるため,連絡をすることが困難であることから,このような承諾手続が必要となるとインターネット上の情報の利用が制約されることとなり,ひいてはインターネットの発展を阻害することになること,Bインターネット上での掲示板への書込みは,多くの場合対価が得られないような程度の内容のものが大部分であること等の実状に鑑みると,インターネット上の掲示板への書込みの著作物性の判断に当たっては,従来の情報伝達手段におけるより厳格な基準によるべきであり,具体的には「何らかの評価,意見」や「何らかの個性」があるだけでは足りず,「相当程度にまとまった独自の思想又は感情に基づく独創性が表現されている」ことを必要とすると解すべきである,と主張する。 しかしながら,膨大な表現行為が行われているため全容の把握が困難であること,匿名で行われた場合に表現者の承諾を得るのが困難であること,対価が得られないような程度の内容の表現行為が多く見られることは,インターネット上の書込みに限られず,他の分野での表現についてもいえることであるから,これらの事情は,インターネット上の書込みの著作物性の判断基準を他の表現についてよりも厳格に解釈することの根拠とすることはできないというべきである。控訴人らは,インターネット上の書込みについて,承諾を必要とする範囲を広く解すると,インターネット上の情報の利用を制約することになり,ひいてはインターネットの発展を阻害することになる,と主張する。しかしながら,インターネット上の書込みについて,その利用の承諾を得ることが全く不可能というわけではない。また,承諾を得られない場合であっても,創作性の程度が低いものについては,多くの場合,表現に多少手を加えることにより,容易に複製権侵害を回避することができる場合が多いと考えられるから,そのようなものについても著作物性を認め,少なくともそのままいわゆるデッドコピーをすることは許されない,と解したとしても,そのことが,インターネットの利用,発展の妨げとなると解することはできないというべきである。 控訴人らは,被控訴人らは匿名で書込みをし,その内容について責任追及を困難にすることを選んだ以上,その書込みについて著作権等の権利を主張することは許されない,と主張する。確かに,例えば,他人の名誉を毀損するなど,その内容について法的な責任を追及されるような内容のインターネット上の書込みを匿名でした者が,他方で,その書込みについて権利を主張することが,権利の濫用などを理由に許されないとされる場合があり得ることは,否定できない。しかしながら,そのような場合があり得るからといって,その理屈をインターネット上の書込み一般に及ぼし,およそ匿名で行った書込みについては,内容のいかんを問わず,権利行使が許されないなどど解することができないことは明らかである。 控訴人らは,被控訴人Jが,インターネット上で偽名を用いて他人を誹謗,抽象する書込みを行っているとして,そのことを理由に,本件について,権利行使を認めるべきではない,と主張する。しかしながら,本件の書込みとは別の書込みの内容は,何ら本件の書込みについての権利行使に影響を及ぼすものではないというべきであり,控訴人らの上記主張は主張自体失当である。 控訴人らの主張は,いずれも採用することができない。 −−−−− |
ホーム > コンピュータ・知財 > 著作権 > 掲示板への投稿 平成14年10月29日 東京高裁 判決(2/2) |