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掲示板への投稿者の著作権

 ホテル関係のホームページ上の掲示板に文章を書き込んだ原告Xら(計11名)が、その文章の一部を複製(転載)して書籍を作成し、これを出版したことにつき、その書籍の執筆・作成者であるY1(情報産業に関連するインフォメーションサービス、出版事業等を営む会社であって、ホームページを開設している。)及びY2(主にホテルに関する執筆活動をしているジャーナリストであって、被告Y1の取締役である。),そして、その書籍を出版、販売頒布し、また、その宣伝広告をしている出版社Y3に対し、被告らの行為は、原告らの有する著作権を侵害するとして、書籍の出版等の差止め及び損害賠償金の支払等を求めた。

 東京地裁判決(平成14年4月15日<判例タイムズ1098号213頁、ウエストロー・ジャパン>)は、差止め等及びXらにつき個別に約5万円から約13万円の損害賠償を認めた。

 これに対して、原告らとY1・Y2が控訴した(出版社であるY3は控訴しなかったので、Y3に関する部分は確定した。)

 東京高裁判決(平成14年10月29日<裁判所サイト、ウエストロー・ジャパン>)は、控訴しなかったY3がXらに既に弁済したことを踏まえて、東京地裁判決の損害賠償に関する部分を変更し、Xらのうち7名に1100円から1万2100円の損害賠償とし、他の4名については請求を棄却した。
 Y1・Y2の主張と東京高裁判決の内容

 (1) 著作物性の判断
 Y1・Y2
 インターネット上の掲示板への書込みの著作物性の判断に当たっては,従来の情報伝達手段におけるより厳格な基準によるべきであり,具体的には「何らかの評価,意見」や「何らかの個性」があるだけでは足りず,「相当程度にまとまった独自の思想又は感情に基づく独創性が表現されている」ことを必要とすると解すべきである。

 東京高裁判決
 膨大な表現行為が行われているため全容の把握が困難であること,匿名で行われた場合に表現者の承諾を得るのが困難であること,対価が得られないような程度の内容の表現行為が多く見られることは,インターネット上の書込みに限られず,他の分野での表現についてもいえることであるから,これらの事情は,インターネット上の書込みの著作物性の判断基準を他の表現についてよりも厳格に解釈することの根拠とすることはできないというべきである。

 (2) 承諾を必要とする範囲
 Y1・Y2
 インターネット上の書込みについて,承諾を必要とする範囲を広く解すると,インターネット上の情報の利用を制約することになり,ひいてはインターネットの発展を阻害することになる。

 東京高裁判決
 インターネット上の書込みについて,その利用の承諾を得ることが全く不可能というわけではない。また,承諾を得られない場合であっても,創作性の程度が低いものについては,多くの場合,表現に多少手を加えることにより,容易に複製権侵害を回避することができる場合が多いと考えられるから,そのようなものについても著作物性を認め,少なくともそのままいわゆるデッドコピーをすることは許されない,と解したとしても,そのことが,インターネットの利用,発展の妨げとなると解することはできないというべきである。

 (3) 匿名での書込みと権利主張
 Y1・Y2
 Xらは匿名で書込みをし,その内容について責任追及を困難にすることを選んだ以上,その書込みについて著作権等の権利を主張することは許されない。

 東京高裁判決
 確かに,例えば,他人の名誉を毀損するなど,その内容について法的な責任を追及されるような内容のインターネット上の書込みを匿名でした者が,他方で,その書込みについて権利を主張することが,権利の濫用などを理由に許されないとされる場合があり得ることは,否定できない。しかしながら,そのような場合があり得るからといって,その理屈をインターネット上の書込み一般に及ぼし,およそ匿名で行った書込みについては,内容のいかんを問わず,権利行使が許されないなどど解することができないことは明らかである。

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