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意思能力(否定例) H19. 1.26 東京地裁判決

意思能力に関する判例

平成19年 1月26日 東京地裁 判決 <平17(ワ)6022号 ・ 平17(ワ)18897号>
土地所有権移転登記抹消登記等請求事件 (請求認容)
から

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  ア 抗弁(1)イ,再抗弁(1)について

 前記認定事実によれば,原告X2は,土地付建物売買契約書(乙A1)に自ら署名し,押印したものと認められる。しかし,前記認定事実のとおり,原告X2は,署名当時,自分の不動産を売却する等の経済行為の結果を弁識し,判断する能力は全く失われていたのであるから,同原告が具体的な売却の意思表示をしたと認めることができるか疑問である。確かに,動作としては,原告X2が上記署名押印をしたことは認められるが,上記の事情に照らせば,原告X2が署名押印の意味を理解していたか疑問であり,署名押印が原告X2の意思に基づくことの認定を妨げる事由があるということができるから,乙A1により,原告X2が被告アイロンに対し,本件土地の持分を売却したと認めることは困難である。他に,これを認めるに足りる証拠はない。

 仮に,外形的には,原告X2が被告アイロンに対し売却の意思表示をしたということが可能であったとしても,前記認定事実によれば,原告X2は,署名当時,自分の不動産を売却する等の経済行為の結果を弁識し,判断する能力は全く失われており,本件土地の持分の売買という行為については,意思無能力であったと認めるのが相当である。

 これに対し,乙A2(Dの陳述書)には,Dが原告X2に対し,登記簿謄本を示して本件土地と原告X2の持分,売却先が被告アイロンであることを確認して,本件土地の原告X2の持分を被告アイロンに売却する意思を確認したうえ,本件土地の権利証がないので保証書による手続が必要になる旨を,丁寧に,わかりやすい言葉を選んで説明し,原告X2に署名,押印してもらった旨の陳述記載がある。

 しかし,上記陳述書を作成したDについては,被告らが人証申請をしなかったことから反対尋問を経ておらず,上記陳述書の信用性が高いということはできない。また,Dの上記陳述記載には,Dの上記説明によって,原告X2がDの説明を理解したかのように記載してあるが,前記認定事実のとおり,原告X2は,平成16年1月当時,事理弁識能力を欠いたとの回答がされており,当裁判所も原告X2は当時意思無能力であったと認定するものであり,これに照らせば,上記陳述記載を直ちに信用することはできない。

 したがって,乙A2をもって,原告X2が売却の意思表示をした事実や原告X2が当時意思能力を備えていたと認定することはできず,他に上記認定を覆すに足りる証拠はない。

 以上のとおり,抗弁(1)イを認定することができない上,原告X2と被告アイロンとの売買契約が成立したとしても,再抗弁(1)が認められるから,抗弁(1)イの原告X2と被告アイロンとの売買契約は,無効である。

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