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意思能力(否定例) H17. 9.29 東京地裁判決

意思能力に関する判例

平成17年 9月29日 東京地裁 判決 平15(ワ)13323号
土地建物根抵当権設定登記抹消登記等請求事件 (一部認容 上訴等 控訴)
要旨
貸金業者との間の連帯保証契約及び根抵当権設定契約について、連帯保証人兼根抵当権設定者に意思能力がないとして無効とされた事例
(出典 判タ 1203号173頁) 
(評釈 谷本誠司・銀行法務21 661号56頁、谷本誠司・銀行法務21 672号33頁)
から

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 3 争点(3)(本件各連帯保証契約及び本件根抵当権設定契約2を締結した際の,原告X2の意思能力の有無)について

  (1) 証拠(<略>)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

 ア 原告X2は,幼年期までに脳性麻痺と診断され,養護学校を卒業して,一般就労を経験することなく,昭和55年以降,身体障害者通所授産施設である板橋区立○○に通所して,園芸作業等に従事している。

 イ 原告X2は,脳性麻痺による体幹機能障害があるとして,東京都から,身体障害者等級表による級別2級の身体障害者手帳の交付を受けている(昭和50年9月9日には同手帳の再交付を受けている。)。

 ウ 原告X2には,脳梁部分欠損とこれに伴う著明な脳室拡大などの脳形態変化が認められ,これにより非進行性の知的障害に罹患している。

 原告X2の知能指数は,鑑定における検査時(平成16年9月14日)において,68と正常に比べて低く,軽度の知的障害が認められた。算数に関しては,一桁を指を折って計算することができる程度であり,小学校低学年程度の知的機能にとどまるものであった。

 エ 原告X2は,本件各連帯保証契約及び本件根抵当権設定契約2を締結した当時,原告X1が本件建物を建て替えるために借金をすることの認識を有していたが,自らが署名押印した金銭消費貸借契約証書(乙7,10)及び根抵当権設定契約証書(乙8)の記載内容を読んで理解する能力はなく,本件各連帯保証契約及び本件各根抵当権設定契約の意味内容を理解していなかった。上記各契約の意味内容を理解していないにもかかわらず,上記各証書に自ら署名押印をした理由につき,原告X2は,鑑定人に対し,母親である原告X1が同じ各証書に署名押印しているので大丈夫であると思ったからである旨述べている。

 オ 前記1(1)のとおり,本件各連帯保証契約及び本件根抵当権設定契約2を締結するに当たり,被告の担当者であるB2及びB1は,原告X2の身体に障害があることを認識していたが,知的障害はないと考えていたため,本件各契約の内容につき,一般的な説明をするにとどまった。

  (2) ところで,意思能力とは,自分の行為の結果を正しく認識し,これに基づいて正しく意思決定をする精神能力をいうと解すべきであり,意思無能力があるかどうかは,問題となる個々の法律行為ごとにその難易,重大性なども考慮して,行為の結果を正しく認識できていたかどうかということを中心に判断さるべきものである。

 そして,上記認定事実によれば,原告X2は,脳梁部分欠損とこれに伴う著明な脳室拡大などの脳形態変化により非進行性の知的障害に罹患しており,一桁程度の計算をする能力しか有していなかったこと,原告X2は,金銭消費貸借契約証書(乙7,10)及び根抵当権設定契約証書(乙8)の記載内容を読んでその内容を理解する能力はなく,本件各連帯保証契約及び本件根抵当権設定契約2の意味内容を理解していなかったこと,また,被告の担当者らは,原告X2に知的障害があるとは考えていなかったため,連帯保証契約及び根抵当権設定契約の内容について,一般的な説明をするにとどまったこと,原告X2が上記各証書に署名押印したのは,母親である原告X1が同じ各証書に署名押印しているので,自らも署名押印して大丈夫であると思ったからであることが認められ,これらの事情を考慮すると,原告X2は,本件各連帯保証契約及び本件根抵当権設定契約2を締結するに際して,連帯保証契約及び根抵当権設定契約の社会的,法律的な意味を理解する能力を欠いていたものというべきである。したがって,原告X2のした本件各連帯保証契約及び本件根抵当権設定契約2の締結の意思表示は,その効果意思を有しないものであるから,上記各契約は無効である。

 これに対し,被告は,本件訴訟のための訴訟委任契約を締結するに当たり,後見人選任がなされていないことからすると,原告X2の意思能力に問題がないことは明らかである旨主張する。

 しかしながら,意思能力の有無は,問題となる個々の法律行為ごとにその難易,重大性なども考慮して,行為の結果を正しく認識できていたかどうかということを中心に判断されるべきところ,社会通念上,自己の利益を守るための弁護士への訴訟委任契約の意味を理解することは,自己がそれ相当の経済的な負担を伴う本件各連帯保証契約及び本件根抵当権設定契約2の意味を理解することよりも容易であると解され,原告X2には,本件記録上(甲25,鑑定の結果),訴訟委任契約の締結に当たり訴訟能力を有していたと認められるが,このことをもって,本件各連帯保証契約及び本件根抵当権設定契約2の締結についても,その効果意思を有していたとすることはできない。したがって,被告の上記主張は採用することができない。

 また,被告は,本件各連帯保証契約及び本件根抵当権設定契約2の締結の経緯に照らせば,原告X2は上記各契約について最低限の情報を事前に原告X1から説明を受けて理解していたはずである旨主張するが,これを認めるに足りる証拠はない。したがって,被告の上記主張は採用することができない。
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