ホーム > 一般民事・商事 > 高度障害・保険金請求 >  

U氏事件・控訴審・第1準備書面から(1/5)

(2006.8)

 原判決は「(3)本件B条項の「障害を残し,終身常に介護を要するとき」という文言から読みとれる通常の解釈,本件B条項以外の本件高度障害条項に該当する障害は明らかに後遺障害であると解されること,証拠(乙45ないし47)及び弁論の全趣旨から認められる高度障害条項が設けられた沿革,並びに本件B条項と文言が近似する労基法施行規則別表第2身体障害等級表及び労災保険法施行規則別表第1障害等級表所定の障害との並行的理解,これらを総合的に考慮すると,高度障害保険金が支払われる高度障害状態とは,「常時他人の介護がなければ生命の維持が困難な,寝たきりのいわゆる植物人間的状態」をいい,「第三者が常にそばに付き添い,食事の摂取,排尿便,体動などに際しては,手を添えて看護を行わなければ自分では何も行えない状態」にあって,それが「死亡まで継続する」ことを要する。したがって,自力で身体を動かすことができたり,食事を一部でも自力で摂取できる場合は,高度障害状態には該当しないと解すべきである。」(19〜20頁)として,訴外Uが高度障害状態ではなかったと判断している。

  本件B条項につき「文言が近似する労基法施行規則別表第2身体障害等級表及び労災保険法施行規則別表第1障害等級表所定の障害との並行的理解」をすることは正当と思われるが,例えば,「労災保険法施行規則別表第1障害等級表所定の障害」は原判決の理解するような狭い範囲ではない。
  つまり,「常に介護を要する」の「常に」とは,1日につき「60秒(1分)×60分(1時間)×24時間(1日)=8万6400秒」の間,全く例外なくという意味ではないし,行動の一部や食事の一部が自力でできたとしても,生活に必要な行動が結局は他人の助力なしには完遂できない場合を含むと一般に解されている。

 例えば,労働者災害補償保険法施行規則「別表第一 障害等級表」の第1級には「三 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの」,「四 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、常に介護を要するもの」があり,両者において,「常に介護を要する」の意味は共通のはずである。

  厚生労働省労働基準局監修『労災補償 障害認定必携』(第12版)では,「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの」についての説明の箇所では「常に」の意味に関する説明が見あたらないが,「胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、常に介護を要するもの」についての説明の箇所では,以下のように述べられている。

「イ 胸部臓器の障害に係る等級は、次により認定する。
(イ) 「重度の胸部臓器の障害のために、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、常に他人の介護を要するもの」 第1級の4
 胸部臓器の障害により、日常生活の範囲が病床に限定されている状態のものがこれに該当する。
(ロ) 「高度の胸部臓器の障害のために、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、随時介護を要するもの」 第2級の2の3
 胸部臓器の障害により、日常生活の範囲が主として病床にあるが、食事、用便、自宅内の歩行など短時間の離床が可能であるか又は差し支えない程度の状態のものがこれに該当する。」(191頁,腹部臓器についても同様。同書196頁)

 このように,「常に他人の介護を要する」とは「日常生活の範囲が病床に限定されている状態」を指すのであり,例えば,食事については,日常生活の範囲が病床に限定されていれば,他人に食事を運んで来てもらわない限り,食事をすることができず,衰弱していき,栄養不良による感染抵抗力の低下による死亡や餓死に至るのであるから当然である。

 なお,食事を運んで来てもらうという手助けを仮に考慮の外に置くとしても,病院で提供された食事(必要栄養量を考慮してのものであるはずである。)の例えば3分の1しか自力では摂取できなければ,必要栄養量を確保できないことが続くのでから,衰弱していき,栄養不良による感染抵抗力の低下による死亡等に至る。

 訴外Uは日常生活の範囲が病床に限定されていたのであり、食事を運んできてもらって、その3分の1を何とか自力で口に運ぶことができたとしても、自力では食事を完遂することができなかったのであり、要するに、食事を自力では行えない状態であったのである。


タイトル
お名前
email
ご感想
ご確認 上記内容で送信する(要チェック


 


   ホーム > 一般民事・商事 > 高度障害・保険金請求 > U氏事件・控訴審・第1準備書面から(1/5)