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U氏事件・控訴審・第3準備書面から(2/3)


  自賠基準の別表第二・第一級の三号は「両上肢をひじ関節以上で失つたもの」,五号は「両下肢をひざ関節以上で失つたもの」,労災基準の第一級の六号は「両上肢をひじ関節以上で失つたもの」,八号は「両下肢をひざ関節以上で失つたもの」であるところ,本件高度障害条項のCは「両上肢とも,手関節以上で失ったか又はその用を全く永久に失ったとき。」,Dは「両下肢とも,足関節以上で失ったか又はその用を全く永久に失ったとき。」とされている。

 これらにおいては,自賠基準・労災基準の方が本件高度障害条項のC・Dの各前段よりも厳しいもの(障害として重いもの)となっている。つまり,本件高度障害条項のC・Dの各前段は,自賠基準・労災基準よりも緩やかな基準を採用しているのであるから,本件高度障害条項の制定趣旨としては,自賠基準・労災基準よりも厳しいものにすることは考えなかったはずである。

 なお,本件高度障害条項のC・Dの各前段に相当するものは,自賠基準では,第二級の三号「両上肢を手関節以上で失つたもの」,四号「両下肢を足関節以上で失つたもの」であり,労災基準でも,第二級の三号「両上肢を手関節以上で失つたもの」,四号「両下肢を足関節以上で失つたもの」とされており,本件高度障害条項の制定趣旨としては,自賠基準・労災基準では第一級に該当せず第二級にしか該当しないものも「高度障害」に含める方針であったことが明白である。

  また,本件高度障害条項では,E「1上肢を手関節以上で失い,かつ,1下肢を足関節以上で失ったか又はその用を全く永久に失ったとき。」が含まれているが,これは,労災基準でいうと,第五級二号「一上肢を手関節以上で失つたもの」に該当し,かつ,第五級三号「一下肢を足関節以上で失つたもの」又は第五級五号「一下肢の用を全廃したもの」に該当するものであるが,このような場合は,併合しても第一級には届かないものと思われる。

 さらに,本件高度障害条項では,F「1上肢の用を全く永久に失い,かつ,1下肢を足関節以上で失ったとき。」が含まれているが,これは,労災基準でいうと,第五級四号「一上肢の用を全廃したもの」に該当し,かつ,第五級三号「一下肢を足関節以上で失つたもの」に該当するものであるが,このような場合も,併合しても第一級には届かないものと思われる。

 以上,要するに,本件高度障害条項は,自賠基準・労災基準の第一級よりも広い範囲をカバーすることを意図して作成されたはずである。

  なお,本件で直接問題になるのは,
 自賠基準 第一級一号
 「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの」
 労災基準 第一級三号
 「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの」
 本件高度障害条項B
 「中枢神経系,精神又は胸腹部臓器に著しい障害を残し,終身常に介護を要するとき。」
であるところ,本件高度障害条項Bでは「終身」との言葉が付いているが,もともと後遺障害に関する定めであり,「障害」とは症状固定後のものであって,医療行為により改善が期待できないものを指すから,自賠基準・労災基準でも「終身」という意味であり,上記3者に意味の違いは存しない。

 そして、第1事件控訴人・第2事件被控訴人の第1準備書面2頁以下でも述べたとおり、「常に介護を要するもの」とは、厚生労働省労働基準局監修『労災補償 障害認定必携』(第12版)にあるとおり、「日常生活の範囲が病床に限定されている状態のものがこれに該当する。」のであり(甲44)、本件高度障害条項Bの「常に介護を要するとき」も同義であるべきである。

  そして,第1事件控訴人・第2事件被控訴人の第1準備書面4頁以下でも述べたように,多くの裁判例は,「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの」の解釈につき原判決のような狭い解釈を採用していないのであり,原判決の判断は,一般的な社会通念に反する上に,判例違反である。
 そして,自賠基準・労災基準の第一級の内容が,「最も重い障害」についての一般的な社会通念を反映したものであるところ,生命保険会社が自賠基準・労災基準の第一級に該当する場合であっても高度障害に該当しないという扱いをすることがもしも許されるとなれば,多くの国民は,保険加入にあたってそのような説明を受けておらず,保険会社から騙されたと受け取ることであろう。


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