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U氏事件・控訴審・第3準備書面から(3/3)


第2 「食物の摂取」が自分ではできないということについて
  「食物の摂取」につき,S病院の診断書(甲2)が「エ 介助がなければ全く不可能」としているのに対し,S温泉病院の診断書(乙25)では「イ 食器・食物を選定すれば自力で可能」、H病院の診断書(乙32を乙33が訂正。)では「ウ 自分では困難」としている。

   しかし、第1に、S温泉病院・H病院の診察期間は,S病院の診察期間に比べて非常に短いのであり,S病院の医師の方が長期にわたって詳しく観察しているのであるから、S病院の医師の診断の方が信用性・確実性が認められると判断すべきである。

   第2に,S温泉病院・H病院の診断書では「食器・食物を選定すれば,自力で可能」とされているが,それを前提としても、少なくとも食器・食物を選定する者が必要であることを意味している。また、起き上がらせることも必要である。

 第3に,「嚥下障害・有 口の中に入れるだけ入れてしまう。少しずつ食べる様に声かけ必要」,「食事のみ自力摂取可。しかし,みまもり必要」との記載(乙26。S温泉病院)は,嚥下障害があるにもかかわらず,口の中に入れるだけ入れてしまうというのであり,少しずつ食べるように声をかける者が必要であること,見守って喉につまらせないようにチェックする者が必要であることを意味している。

 なお,上記の「食事のみ自力摂取可」という記載については,その後の「しかし,みまもり必要」との記載部分や「嚥下障害・有 口の中に入れるだけ入れてしまう。少しずつ食べる様に声かけ必要」との記載部分などと総合的に理解する必要が」あり,総合的に理解すれば、「自力摂取可」の意味は,単に,目の前にある食物を自分の手で口に運ぶことができることのみを指していることが明らかである。

 しかも,「自力では半分以上こぼす為,食事の3分の2は介助を要する。」(乙33。H病院)との記載のように,出された食物の3分の1ぐらいしか摂取できず,あとはこぼしてしまうのであり,介護者の見守りや介助が必要なのである。

  そもそも,人間の食事という営みは,単に目の前にある食物を口に運ぶことのみで足りるものではない。

 介助なしに食事ができるためには,以下のA〜Kのすべてが必要である。

 前述のように,内海は,食物の選定(A)・食器の選定(B)が自力では行えなかったから,介助なしには次の段階(C以降)には進めなかった。
 また,内海は寝たきり状態であったから,介助者にベッドから起き上らせてもらわない(C)限り、次の段階(D以降)に進めず、食事ができなかった。
 その後も,D〜Gのステップを介助なしには行えなかった。

 介助者がA〜Gを行えば,かろうじて,Hについて,3分の1ぐらい(hの部分)は行えた。しかし,きちんと咀嚼していたとは思えないし,嚥下機能に障害があった(*の部分)。また,病院で出された食事の3分の1しか摂取できなければ,必要栄養量を確保できない。
 その後のプロセスであるI〜Kについても自力では行えなかった。

 このA〜Kのステップのうち,わずかhの部分だけがかろうじて自力で行えたとしても,総合的にみて、とても自力で食事ができるという評価にはなりえない。

食べることができる食物を選択する   A
食べることができるよう食器を選択する B
ベッドから起き上がらせる       C
食物を運び,食べやすい場所に置く   D
特殊なスプーンを持たせる       E
取るべき食物を選択する        F
食物の適量を取る           G
食物を口に運ぶ            H  h
食物を口の中に入れる            
食物を咀嚼する               *
食物を嚥下する               *
(以下,繰り返し)          
汚れを拭く              I
適切な時期に食べるのをやめる     J
片づける               K

  食事にしても,その他の行為にしても,社会通念上,ひとまとまりの行為を指すのであり,そのひとまとまりの行為につき,「介護が必要であった」か「介護が必要でなかった(自力で行えた)」かの判断が行われるべきものである。そのひとまとまりの行為のうちの一部のプロセスにおいて介護者の行為が介在していなくても,そのひとまとまりの行為につき結局において介護者の行為が必要であったのであれば,「介護が必要であった」という判断になるのである。

   ひとまとまりの行為のうち,ごく一部が自力でできれば全体として自力でできたとするのは,例えば,宿題の3分の2を親に手伝ってもらった児童が,宿題を自分がすることができたと言うに等しく,極めて不当である。

   それゆえ,原判決の判断は,社会通念に反するし,経験則違背でもある。

  なお,第1事件・被控訴人は,いわゆる「植物人間」的状態(以下,「植物状態」という。)に適用を限定したものである旨を主張するが,植物状態にある者の介護は,介護者が自己の食事・用便などのために被介護者のそばを離れることができるのはもちろんのこと,栄養や水分はチューブによる摂取であることや介護者が対処しなければいけないことがかえって少ない場合が多いことなどから,介護者が,任意の1日の中の任意の時間,例えば,1時10分から1時20分までの10分間をとってみた場合に,介護者が手を添えて介護したり監視したりしていることは必ずしも必要ないのである。

   つまり,植物状態よりも軽い状態である者の介護の方が,植物状態にある者の介護に比べて,かえって介護行為の量や時間が多くなるというのが実際である。


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