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H17. 4.26 札幌高裁(続き)

前掲 平成17年 4月26日 札幌高裁 決定 <平16(ラ)88号>


 3 本件における株式の評価方法の選択
 まず,比準方式を本件で採用することの可否について検討すると,申請人の株式が過去10年間に売買された事例はないから,取引事例法は本件では採用しない。また,評価会社と事業に類似性が認められる公開会社はないから類似会社比準法は採用できず,類似業種比準法は国税庁において課税の公平性と簡便性の観点から政策的に採用されている方式であり,売買を前提とした株式評価に用いるのは相当でないから,いずれも本件では採用しない。
 そこで,その余の方式について検討すると,株式の売買を相対で行う場合,通常は,いずれか一方の交渉力が他方を上回るのが一般的であるが,本件は,商法の規定により株式の買取価格を決定するものであるから,双方対等の立場で評価すべきである。
 そして,売手の立場からは,株式の売買は株主の投資回収の方法であり,主として経済的利益の補償という観点からその算定方式を考慮すべきであるところ,株式の売買は,売手がこれまで顕在的に行使していた利益配当請求権と潜在的に有している残余財産配当請求権を換価するという側面がある。そこで,売手の立場から最も合理的な評価方式は,配当方式と純資産方式の併用方式であり,この方式に差をつける合理的な根拠は見出しにくいため,それぞれの平均値とするのが相当である。
 他方,買手の立場からは,静的な評価方式である純資産方式を採用するのは妥当ではない。また,本件株式の買手は申請人自身であり(自己株式を取得することになる。),配当を期待するものではないから,配当方式を採用することも相当ではない。継続企業の動的価値を現す最も理論的な方法は,収益方式であり,買手の立場からは収益法を適用して評価するのが相当である。評価が将来収益に全面的に依拠しており,その根拠が不確実になる欠点を持っているため,評価会社の過去の財務数値を慎重に検討した上で,買手の立場からは収益法を適用して評価するのが合理的である。
 以上の売主の立場と買主の立場を総合的に勘案するためには,売主と買主を双方対等の立場にあることを前提として,売主の立場からの相当な評価方式と買主の立場からの評価方式を1対1で評価価格に反映させるのが相当である。そうすると,本件では,全体を1とすると,
 配当方式:純資産方式:収益方式=0.25:0.25:0.5
の併用方式を用いるのが相当である。
 なお,申請人は,東京中小企業投資育成株式会社の投資引受価格を基にした株式価格をも,本件株式の算定の基礎とすべきである旨主張する。しかしながら,同社の投資引受価格は,上記2の各株式評価方式と比較して,一般的に客観化された株式評価方式として定着しているとまでは認められないから,これを株式算定の基礎とするのは相当でないというべきである。



 4 本件における具体的な算定方式

  (1) 配当方式の中では,配当還元法とゴードンモデル法のいずれを採用すべきかが問題となる。配当方式のみで株式の評価価格を算定する場合には,企業が獲得した利益のうち配当に回されなかった内部留保額についても,配当の増加を期待できるものとしてこれを加味するゴードンモデル法を採用するのが相当とも思料されるが,上記のとおり,本件では,配当方式,純資産方式及び収益方式の併用方式を採用する以上,配当方式の中では配当還元法を選択するのが相当である。配当還元法によれば,本件株式価格は600円となる(計算式は,下記のと
おりである。)。
  
  (2) 純資産評価方式の中では,本件においては,資産の含み益の影響を無視することができないため,時価純資産法を採用し,時価純資産法のうち,継続企業を前提とする再調達時価純資産法を用いるのが相当である。再調達時価純資産法によって申請人の株価を算定すると,別紙1のとおり,2万0184円となる。
  (3) 収益方式の中では,会計上の利益をキャッシュフローとするのではなく,実際の収益をキャッシュフローとするのが,一般には株式の価値を正確に反映することが可能であるから,DCF法(ディスカウンテッドキャッシュフロー法)を採用するのが相当である。DCF法によって申請人の株価を算定すると,別紙2のとおり,1万0383円となる。
  (4) 以上の各方式による算定額を上記「配当方式:純資産方式:収益方式=0.25:0.25:0.5」の割合で評価価格に反映させると,
 600×0.25+20,184×0.25+10,383×0.5
 =10,387円(円未満切捨て)
となり,これに株式数10,500を乗じると,
 10,387(円)×10,500(株)=1憶0906万3500円
となる。

 5 結論
 よって,本件株式の売買価格を1憶0906万3500円と定めることとし,主文のとおり決定する。 
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