ホーム > 一般民事・商事 > 株式評価(株価算定) >  

H 1. 5.23 東京高裁 (配当還元:簿価純資産:収益還元 6:2:2)

平成元年 5月23日 東京高裁 決定 <昭63(ラ)726号 ・ 昭63(ラ)728号>
株式売買価格決定申請事件
一部変更

要旨
商法二〇四条の四による株式売買価格の算定事例
本条による売買価格の決定について、配当還元方式を六、簿価純資産方式及び収益還元方式を各二の割合で併用するのが相当であるとした事例

裁判経過
 第一審 昭和63年10月27日 東京地裁 決定 昭61(ヒ)314号

出典
判タ 731号220頁 
判時 1318号125頁
金商 827号22頁
商事法務 1196号1557頁
ウエストロー・ジャパン

評釈
生田治郎・判タ臨増 735号242頁(平元主判解) 
森淳二朗・法セ 421号100頁
森淳二朗・法セ 435号118頁

 1 前記認定事実によれば、サンイーグルは、経営は順調で今後の営業継続に特に問題はなく、近い将来における解散は予想されないこと、抗告人らの取得する株式は、発行済株式総数に対して合計でも九パーセントに過ぎず、抗告人らが本件株式の取得によりサンイーグルの経営を支配することはできないことが明らかであり、したがって、本件株式の取得者は、配当金の取得を主たる利益ないし目的とせざるを得ないから、右価格算定に当たって、基本的には配当還元方式を採用するのが相当である。
 2 しかしながら、配当還元方式を採用するに当たっては、将来の一株当たりの配当額を的確に算出することは甚だ困難であり、結局は過去の配当額に依拠せざるを得ず、必ずしも正確性は期し難い。サンイーグルにおいては、前示のような資産額の増加状況からすると、収益の相当割合を社内に留保して資産を増加させることに重点がおかれ、配当額が比較的低く押さえられてきたことがうかがわれる。しかも、配当額は直接的・最終的には支配株主の意思により決定されるが、殊にサンイーグルのように同族会社的色彩が濃厚で少数者による支配が確立している会社では、右決定は経営担当者や支配株主の経常政策に依拠するところが多く、それ自体不確定要素の高いものである。他方、支配株主が全く恣意的に配当額を定めることは、会社経営の継続を前提とする以上許されず、会社の資産、収益の内容、程度を勘案せざるをえないし、支配株主の意思も不変ではないから、過去の配当額に多くを依拠する配当還元方式のみによることは不十分であり、純資産価額方式及び収益還元方式をも併用するのが相当である。
 3 更に、商法二〇四条の二による株式発行会社の株式譲渡の不承認及び譲渡の相手の指定は、当該会社が自己に不利益な株主を排斥するために認められた手段であり、その半面、当該会社の利益のためその限度で株主の株式譲渡の自由に制限を加えるものである。したがって、そのため譲渡人である相手方に対し、自由に譲渡した場合に比して不利益を与えることを避けなければならない。株式を自由譲渡するに当たっては、譲受人の意思がその価格の決定に大きく影響するところ、本件株式数は少数株主権の行使(その一部、別件において抗告人樫村が売渡しを受けたサンイーグル株式二〇〇〇株を加えるとその全部)を可能とするものであり、サンイーグルが相手方の譲渡予定者を忌避したことは右譲渡予定者が単に配当利益の取得のみに関心を抱くものではないこと、またサンイーグルと抗告人らとの前示の関係からすると、サンイーグル代表取締役である上田貞次が将来において本件株式を取得する可能性が少なくはないことが推認される。
 4 以上の事情を斟酌すると、三方式併用の割合は配当還元方式を六、簿価純資産方式及び収益還元方式を各二とするのが相当である(なお、この併用方式により算出される価格は、配当還元方式により算出される額の約三倍になる。)。
 そこで、前記の各方式によって算出された価格に基づいて計算すると、本件株式の一株当たりの価格は二七七五円(円未満四捨五入)となる。
 四 抗告人らは配当還元方式に、他方、相手方は純資産価額方式によるべきであると主張するが、前記のとおり、本件の場合は三方式併用が相当であるから、右各主張はいずれも採用できない。
 また、相手方は、類似会社比準方式も採用すべきであると主張する。しかし、サンイーグルは洋装雑貨の販売を目的とする会社であるところ、同社と類似する適切な会社を上場企業の中から選択することは困難であるから、右方式の採用は相当でない。
タイトル
お名前
email
ご感想
ご確認 上記内容で送信する(要チェック


 


   ホーム > 一般民事・商事 > 株式評価(株価算定) > H 1. 5.23 東京高裁 (配当還元:簿価純資産:収益還元 6:2:2)