ホーム > 一般民事・商事 > 退職後の競業避止義務 >  

平成20年 1月29日 東京地裁 判決

平成20年 1月29日 東京地裁 判決 <平18(ワ)2153号 ・ 平18(ワ)12637号>

事案の概要
 本訴は,原告会社の元従業員であった個人被告らが,原告会社を退職後,被告会社を設立等して,原告会社と競業する行為を行ったことにつき,原告会社から,個人被告らに対しては共謀行為(共同不法行為),被告会社に対しては使用者責任を各々理由として損害賠償の請求をなす事案
 反訴は,被告らが,原告会社の被告らに対する本件訴え提起を不当訴訟として損害の賠償を求めるもの。
出典 ウエストロー・ジャパン

ーーーーー
第3 争点に対する判断
・・・
 2 争点1(競業行為の違法性)
  (1) 個人被告らの原告会社を退職する前からの被告ら又はBとの共謀の事実
 個人被告らが,原告会社を退職する前から競業事業の計画を共謀し,またその目的にて原告会社における怠業をなすなどの事実は,認定ができない。前記認定事実記載のとおり,被告Y1の退職後,短期間のうちに,被告Y3,同Y2が退職しているが,同人らの共謀の事実を推定することは困難である。被告Y1は,原告会社における間に,その能力や人柄によって被告Y3,同Y2に共感や尊敬を勝ち得ている事実が窺われる(証拠略)のであって,そのような者が原告会社の一方的な理由により退職させられたと感じた被告Y3,同Y2が,それに続いて当たり障りのない一身上の都合を理由に退社したという中小企業ではありがちな事実が窺えるのであって,原告会社に仇をなすために共謀の上退社したと推定するには証拠が不足している。
 また,前記認定事実(8)及び個人被告らが相次いで原告会社を退社して被告会社を設立したことなどの一連の事実を原告は,Bと被告Y1の共謀の事実を推認させるものと主張しているが,前記認定事実(8)の事実は,むしろ,原告会社のやり方に不満を覚えていたBらが原告会社の中で有能と考えられていたY1を社長にした方が良いと述べることによってAを揶揄したと考えることの方が素直である。むしろ,Aが,このBらの揶揄に過剰に反応したことが被告Y1を退職に追いやり,そのことが被告Y3,同Y2らの退職の引き金になったと認定することができるのである。
  (2) 被告らの退職後の個人被告ら又はBとの共謀の事実
 企業の従業員が退職後に当該企業の営業と競業する事業に従事したとしても,労働者には職業選択の自由がある以上,それだけでは不法行為は成立しない。但し,合理的な範囲において競業を禁ずる合意がされている場合や,競業に従事したことに伴い,社会通念上自由競争の範囲を逸脱した違法な態様で従前の雇用者の従業員や顧客を奪ったとみられる場合,あるいは従前の雇用者に損害を加える目的で一斉に退職し雇用者の組織活動が機能し得なくなるよう行動したなど特段の事情がある場合には,全体として不法行為が成立する余地がある。
 とすれば,原告会社退社後に被告らが,単に原告会社と競業する会社を設立し競合行為を行った事実だけではなんら違法な行為と評価することはできない。
   ア ゴルフ場運営会社の奪取の事実があったか。
 原告会社は,被告らが原告会社と取引をなしていたゴルフクラブを奪ったという主張をするも,ゴルフクラブ運営会社に対する社会通念上自由競争の範囲を逸脱した違法な態様の働きかけの事実をなんら主張し立証するところがない。ゴルフクラブは,通常,ゴルフスクールを運営する何社もの会社と契約をしていて,被告会社と当該ゴルフクラブが取引を開始したからといって自動的に原告会社が排除されるという関係になく(乙13頁14〜15,Y1・27頁),また,原告会社と取引をなしていたゴルフクラブ運営会社と原告会社間の契約上,ゴルフクラブ運営会社には原告会社との取引を継続する義務を定めておらず(甲5),前記認定事実(7)記載のとおり,原告会社の管理に問題があったことに加え,タラオカントリークラブについては,原告会社が弁護士名により過大な料金請求をしたことに嫌気して,ゴルフクラブ側が原告会社との契約を打ち切ったことを推定させる事実(甲39)もあって,被告らの原告会社を排除する目的によるゴルフクラブ側に対する違法な方法による働きかけの事実は認定ができない。
 また,原告会社が,小萱OGMチェリークリークゴルフクラブ又はグランドオークプレイヤーズコースについて,原告会社のゴルフスクール開催の内諾を得ていたという主張は,客観的な証拠が一切なく認定ができない。却って,小萱チェリークリークゴルフ場には,被告Y3とAが平成16年の9月か10月に営業に行った際,同ゴルフ場は,経営再建のための組織中のためということを理由に,原告会社の申込に対する諾否の返事をしなかったという事実が窺えるのである(乙14)。

タイトル
お名前
email
ご感想
ご確認 上記内容で送信する(要チェック


 


   ホーム > 一般民事・商事 > 退職後の競業避止義務 > 平成20年 1月29日 東京地裁 判決