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平成19年10月 5日 福岡地裁 判決(1/3)

平成19年10月 5日 福岡地裁 判決 <平18(ワ)2157号>

事案の概要
 原告の元従業員であった被告が,入社時の誓約及び原告の就業規則に規定する退職後の競業避止条項に違反して,原告の顧客である歯科医院などから歯科用合金スクラップの買取りをしたとして,買取りの差止めと損害賠償を求めた
要旨
 入社時の誓約及び会社の就業規則に規定する退職後の競業避止条項が公序良俗違反とされた事例

出典 判タ 1269号197頁 ウエストロー・ジャパン

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第3 争点に対する判断
 1 本件誓約書合意の成否について(争点(1))
 弁論の全趣旨によれば,被告は,甲1に署名押印したことが認められるところ,これによれば,本件誓約書合意の成立が認められる。
 被告は上記第2の2(1)の被告の主張イのとおり主張するが,甲1は一枚の用紙で,記載内容も平易であり,一般人をして説明なくして理解できないようなものではなく,上記主張内容をもって上記認定を覆すことはできない。

 2 本件誓約書及び就業規則19条4項は,公序良俗違反か(争点(2))。
  (1)ア およそ,退職後一定期間は使用者である会社と競業行為をしない旨の入社時における特約や就業規則の効力は,一般に経済的弱者の立場にある従業員の生計の方法を閉ざし,その生存を脅かすおそれがあるとともに,職業選択や営業の自由を侵害することになるから,上記特約や就業規則において競業避止条項を設ける合理的事情がない限りは,職業選択や営業の自由に対する侵害として,公序良俗に反し,無効となるというべきである。
 したがって,従業員が,雇用期間中,種々の経験により,多くの知識・技能を取得することがあるが,取得した知識や技能(以下「知識等」という。)が,従業員が自ら又は他の使用者のもとで取得できるような一般的なものにとどまる場合には,退職後,それを活用して営業等することは許される。
 イ(ア) しかしながら,当該従業員が会社内で取得した知識が秘密性が高く,従業員の技能の取得のために会社が開発した特別なノウハウ等を用いた教育等がなされた場合などは,当該知識等は一般的なものとはいえないのであって,このような秘密性を有する知識等を会社が保持する利益は保護されるべきものであり,これを実質的に担保するために,従業員に対し,退職後一定期間,競業避止を認めることは,合理性を有している。
 会社との間で取引関係のあった顧客を従業員に奪われることを防止するということのみでは,上記アに照らし,競業避止条項に合理性を付与する理由に乏しい。顧客を奪われることを主として問題とする場合でも,会社が保有していた顧客に関する情報の秘密性の程度,会社側において顧客との取引の開始又は維持のために出捐(金銭的負担等)した内容等の要素を慎重に検討して,原告に競業避止条項を設ける利益があるのか確定する必要がある。
 (イ) また,当該従業員が,会社において一定の重要な役職に就いている等,他の従業員等に対し多大の影響力のある場合には,会社にとって,退職した者に対し競業避止を求める必要性が大きいといえる。
 (ウ) さらに,競業制限の程度(範囲,期間等)によっては,従業員の生存権や職業選択の自由,営業の自由に対する侵害の程度が小さく,実質的に見て,これらに影響を与えない場合もありうる。
 (エ) そして,会社側が従業員に対し十分な代償措置を図っている等の事情があれば,従業員の利益は一定程度図られることになる。
 (オ) 上記(ア)ないし(エ)等の事情の存否を検討し,会社と従業員との利益を総合的に考量した結果,競業避止条項を設ける合理的事情が認められる場合,同条項が,公序良俗に反しないものとして,有効となることもありうるというべきである。たとえば,従業員に対し競業避止を求める会社の利益が小さいとしても,会社が従業員に対し十分な代償措置を講ずることによって,従業員の生存権,職業選択の自由,営業の自由が実質的に保護されれば,競業避止条項が公序良俗に反しない場合もありうる。
 そこで,これらの事情の存否等について,以下検討する。

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