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平成19年10月 5日 福岡地裁 判決(2/3)

平成19年10月 5日 福岡地裁 判決 <平18(ワ)2157号>

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(続き)
  (2) 原告の利益に関する事情等について
 上記第2の1の事実に加え,証拠等(甲1?23(枝番を含む。),乙1,弁論の全趣旨)によれば,次の事実等が認められる。
 ア 被告は,12年あまり原告福岡営業所に所属し,営業を担当していた。被告は,いわゆる「一般社員」である。被告が,原告において役職等を有していたとの証拠はない。
 イ(ア) 原告が被告に対し禁止等を求める歯科用合金スクラップ買取業は,買取側が,歯科医院等から合金スクラップを一旦預り,含有貴金属(金,銀,白金)量を分析し,含有貴金属量に相当する代金から分析手数料を控除した金額を,歯科医院等に支払う取引である。
 この取引については,歯科用合金が有価物として買い取られるため,廃棄物の処理及び清掃に関する法律の規制対象にならず,買取業者について,収集・運搬・処分に係る同法の許認可は必要でない。
 また,上記買取業務には,特殊技能は要しない(訴状4頁)。
 (イ) 原告と歯科医院等との間では,歯科用合金スクラップ買取りについて継続的な取引契約等を締結していない。上記買取りについて,原告以外にも同業他社は多数あり,市場の独占はない。
 原告の担当者が歯科医院等に訪れるのは,数か月に1回程度である。被告が原告在職中,原告の担当者が歯科医院等に上記スクラップの回収を行ったとき,他の業者により回収済みであったこともたびたびあった。
 原告は,原告と歯科医院等との間で,医療用廃棄物の処理に関する継続的な契約を,歯科用合金スクラップ買取りの契約とセットで行っている旨主張するが(原告第3準備書面3頁),甲21の1ないし10,乙1(E歯科医師会は,原告との契約は医療廃棄物関係の契約であって,撤去冠については契約外であるとの認識を示している。)を見ても,両契約が法的にセットであるとすることはできない。
 (ウ) 原告は,歯科医院等は貴金属分析工程などについて関心が高く,担当従業員には知識と説明能力を要するから,担当従業員に必要な教育を行うとするが(同準備書面3頁),その具体的内容(当該教育が一般的に取得できる知識の習得を目的としているか等)を明らかにしない。
 また,原告は,歯科合金の買取りと医療廃棄物の処理についての歯科医院等との取引の開始は,専ら地域の歯科医師会の推薦や紹介者に紹介料を払うこと等によって事実上可能となるとするが(同準備書面3頁),上記(イ)のとおり,両契約は別個のものであり,原告が歯科用合金スクラップ買取りにつき具体的にどのような出捐(金銭的負担等)をしているかについては,原告の主張によっても明らかでない。
 (エ) 原告は,「顧客の名簿及び取引内容,価格等に関わる事項」は,経営の根幹に関わる重要な情報であり,被告は,このような情報を使用して歯科用合金スクラップの買取業を現に行っている旨主張する。しかしながら,歯科医院等であれば,業務の過程で上記スクラップが生じるのは通常であるところ,歯科医院等の所在は容易に調査可能であり(電話帳等にも掲載されている。),価格も貴金属の価格の相場で決定されるから(原告の主張),原告主張の情報が,上記スクラップの買取業務を遂行する上において,どのような重要性を有するかは明らかでない。
 (オ) 原告は,歯科用合金スクラップの買取りの際,上記のとおり,歯科医院等は業者に有価物を預託するから,業者に信用を要するといった事情があり,新規参入のためには,顧客との従前からの取引により顔なじみによって取引を認めてもらう以外ない旨主張する(原告第8準備書面5頁)。しかしながら,歯科医院等は,被告が原告に在職している間,原告への信用を基礎として,原告の従業員である被告に有価物を預託したのであって,顔なじみであることから,直ちに被告に信用が認められ,被告の新規参入を認めるという関係があるとはいえない。
 ウ 被告は,原告退職前3年間,原告在職中,歯科用合金スクラップ買取りについて,別紙1取引先一覧表記載(番号102を除く。)の歯科医院等と取引していた。その歯科医院等の中には,同表番号(取引は1回のみで,取引額も小さい。)77,78のように,取引実績がほとんどないものも含まれている。
 被告の原告在職中の上記買取りについての具体的業務は,歯科医院等から歯科用合金スクラップを預かり,原告に引き渡し,その後原告から渡された明細書を持って歯科医院等に代金を支払うことのみであり,査定は担当外であった。被告は,そのほか,歯科医院等との間の医療用廃棄物の処理についても担当していた。
 エ 被告は,原告退職後,別紙2計算書記載の歯科医院等から,歯科用合金スクラップの買取りを行った。被告が,歯科医院等との間で,上記買取りについて継続的契約を締結するなど,原告と歯科医院等との間で上記スクラップの買取りができなくなるような形で契約等した証拠はない。

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