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平成19年10月 5日 福岡地裁 判決(3/3)

平成19年10月 5日 福岡地裁 判決 <平18(ワ)2157号>

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(続き)
  (3) 競業避止の範囲等の事情等について
 ア 本件誓約書及び就業規則19条4項における規定内容は,上記第2の1(2),(3)のとおりである。
 競業避止の対象となる取引の種類は,本件誓約書が「在職中の会社の全取引先につき会社と同一又は類似の業務」であり,上記就業規則は「会社と同等の事業(直接又は間接を問わない。)」である。本件誓約書及び上記就業規則において,競業が禁止される地域の限定はない。
 本件誓約書記載の「在職中の会社の全取引先」とは,原告が担当者として行った相手方に限定されるものではなく,原告の他の従業員が担当者になっているものも含むと解するのが自然である。競業避止の範囲は,規定上,本件誓約書より上記就業規則の方が広い(「在職中の会社の全取引先につき」との限定がない。)。
 原告は,本件訴訟において競業避止の範囲を限定し,被告が原告従業員として取引した福岡県,佐賀県,長崎県にある歯科医院等からの歯科用合金スクラップの買取りの差止めを求めるとともに,退職前3年間に取引した歯科医院との間で行った上記買取りについて損害賠償請求をする。しかしながら,本件誓約書や上記就業規則の文言からは,競業避止の対象となる取引の種類,区域,取引相手となる歯科医院等の範囲について,原告の上記請求のように限定する解釈を導くのは困難である。
 さらに,上記2年間又は3年間という期間は,被告が受給可能ないわゆる失業保険の給付期間(雇用保険法参照)に比し,長期に及んでいる。制限期間は,本件誓約書合意で退職後3年間,上記就業規則で退職後2年間とされるが,就業規則では,競業禁止の範囲が拡大されているため,競業避止期間のみが同規則のとおり短縮されるか否かは疑義がある。
 本件誓約書合意には,合意の違反には損害賠償する旨規定し,被告に対し営業等を萎縮させる条項が規定されている。
 イ 原告は,被告の原告退社時ころの福岡県,佐賀県,長崎県の歯科医院等の数は5306軒あり,被告担当であった254軒の歯科医院等からの歯科用合金スクラップの買取りについて,退職後2年間競業避止が求められても,被告の生存権が脅かされる状況にない主張する。
 しかしながら,本件誓約書及び就業規則19条4項の解釈において競業避止の対象等を制限できないことについては,上記アのとおりである。

  (4) 総合評価
 原告が競業避止条項を設けた目的は,原告の主張によれば,被告によって原告の顧客を奪われることを防止することにあるところ,上記(2),(3)の事情に照らすと,顧客情報等の秘密性に乏しく,原告が被告に対し競業避止を求める利益は小さいと言わざるをえない。他方,競業避止の対象となる取引の範囲(種類,地域)は広範で,期間も長期に及び,競業避止条項により,被告の生存権,職業選択の自由,営業の自由に対する侵害の程度が大きいことが認められる。
 そして,被告は,原告において役職等を有しておらず,退職後,原告従業員に対し強い影響力を有する地位等にあったとはいえない。また,原告が被告に対し競業避止に関する代替措置を講じた事実は認められない。
 以上のほか,一件記録から認められる諸般の事情(原告は,南田所長と被告間でなされたとされる「競業をしない。」との約束も問題にする。)を総合考慮しても,競業避止条項を設ける合理的事情は認められず,本件誓約書合意及び就業規則19条4項における競業避止条項は,公序良俗に違反し,無効である。
 原告の指摘する種々の裁判例は,本件とは事案を異にし,これらの裁判例により原告の主張を根拠付けることはできない。
 3 よって,その余の点を判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がない。

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