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平成19年 3月29日 東京地裁 判決(2/2)

平成19年 3月29日 東京地裁 判決

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(続き)
   ウ 本件競業避止条項の期間,対象職種,地域等について
 (ア) 原告は,役職者の地位に応じて競業避止義務の内容を変えることはなく,本件当時,退職する役職者(フロア長以上)全員に同内容の役職者誓約書の提出を求め,競業避止義務を負担させていた。
 (イ) 本件競業避止条項には,対象職種及び地域を制限する文言はなく,期間については,文言上「最低1年間」としていたが,原告としては,退職日の1年後の転職については退職者の責任を追及しない意図であり,また,被告及び被告の転職に関与したCも期間を1年間と認識していた。
 (ウ) 原告は,47都道府県において,300弱の店舗を展開する家電量販店であり,本社の営業会議で決定された事項が各店舗に伝達・配信され,全国統一的な店舗運営を行うという方法を採用しており,各店舗の経営を各店舗に任せるという方法は採用していない。
 (エ) 本件競業避止条項に反した場合の制裁については,上記第2の2(3)で示したとおりである。
 (オ) 以上からすれば,本件競業避止条項は,全役職者に一律の内容で,期間の限定はあるが地域の限定はなく,また,競業避止義務を負う1年間の半分の期間の給与及び退職金の半額の返還を求めるという,違反者が転職により給与を受給できる状況にあることを前提に考えても,なお,重い制裁を規定していることが認められる。

   エ 代償措置について
 (ア) 原告は,被告に対し,原告賃金規程に基づいて給与を支給しており,その内訳は,平成16年2月から6月までは基本給28万3150円,役職手当25万6500円,技能手当5万9500円,社宅手当6000円で,合計60万5150円,最後の給与となった平成16年7月分は基本給28万5500円,社宅手当6000円,技能手当3万9500円,業績手当20万5300円,役職手当6万円で,合計59万6300円であった。最後の給与についてのみ業績手当が支給されている代わりに,役職手当は,大幅に減額されており,それまでの役職手当と最後の給与の役職手当に業績手当を加えたものの差は,8800円であった。
 (イ) 店長の役職手当は,原告賃金規程の役職手当表によると,13万3000円から28万5000円の幅があり,いずれの金額になるかは,店舗の年間売上の規模等に応じることとなっており,役職手当は,競業避止義務を負わないコーナー長にも月額2万円支給されていた。
 (ウ) 被告は,母店長となってからは,深夜まで報告書の作成や会議の資料作りのために勤務することが多々あり,休日としていた月曜日にも携帯電話に店舗や原告本部から頻繁に連絡があったうえ,翌日の会議用の資料作りのために出勤することもあった。
 (エ) 原告では,フロア長以上の役職者については残業代の対象外であり,被告も残業代を受給したことはなかった。
 (オ) 以上からすれば,原告における役職手当の額は,店舗の売上規模によって増減し,機密事項との接触の程度あるいは競業避止義務の負担とは必ずしも関係がないことが認められる。また,被告がほぼ毎日長時間原告の従業員としての職務に従事していることが認められることからすれば,原告からの給与額は,労務の対価として相当な金額とも説明され得る程度のものであり,競業避止義務の代償措置として何らかの金銭が支給されていたとまで断定しがたいが,他方,競業避止義務を負わないコーナー長等に支給されていた役職手当月額2万円と店長に支給される最低限の役職手当月額13万3000円の間には相当程度の較差があり,この中に競業避止義務の代償措置が一定程度含まれている可能性も否定しがたい。

  (3) 以上のような認定を前提にすれば,本件においては,合意の内容である競業避止義務は,必ずしも従業員の地位や責任に個別的に応じたものとはいいがたく,違反者に対する制裁は重く,代償も必ずしも十分に提供されているとはいいがたいこと,被告の退職前の地位は,営業会議に参加するなどして原告の機密事項に常に関わるものではなかったものの,管理者側に立って,上層部の方針を現場である店舗で実現するために店舗を管理し,店内を指揮監督していた立場であったこと,被告は,このような地位の中で,原告固有の知識及び秘密であるところのシステム運営技術及びノウハウ等に接触していたといい得ること,競業が禁止される地域の限定はないが,原告は全国展開している家電量販店であり,全国統一的な店舗運営を行っているという点からすれば,地域の限定がされないこともやむを得ないと解し得ることが認められる。
 このような諸事情を総合考慮すると,本件誓約書の合意は,母店長あるいは店長としての地位で店舗の管理や指揮監督を行う中で取得した原告固有の知識及び秘密の漏洩を防止するという目的の限度において,被告に対してこれを適用することには,一定の合理性を有するものと認めるのが相当である。しかしながら,その合理性及び必要性は必ずしも強度なものとはいいがたいのであり,本件競業避止条項における違約金条項が競業避止義務を負う1年間の半分の期間の給与及び退職金の半額の返還を求めるという重い制裁を課していることにかんがみれば,1年間の半分の期間の給与の返還を求める点については,その目的及び必要性とのバランスを欠くものとして,その有効性を認め得ず,退職金の半額の返還を求める範囲内で有効なものと取り扱うのが相当である。

 3 争点(3)(ケーズモバイル社への転職の本件競業避止条項該当性)について
 原告は,ケーズモバイル社が本件競業避止条項における競合他社に当たる旨主張する。
 しかしながら,原告の業務が多岐に渡り,販売商品も電気機器を中心に様々であること(弁論の全趣旨)からすると,原告も携帯電話を販売しているという事実のみをもって,直ちにケーズモバイル社が原告の競合他社に当たると認めることはできない。むしろ,ケーズモバイル社が携帯電話の卸売りを中心にした業務展開をしていること(前記1(1)ウ)に照らせば,原告における固有の知識や秘密がケーズモバイル社によって利用され,原告が損害を被る可能性は極めて乏しいものというべきであるから,ケーズモバイル社が本件競業避止条項における競合他社であると認めることは相当でないというべきである。

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