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平成18年 9月 4日 東京地裁 判決

平成18年 9月 4日 東京地裁 判決 <平17(ワ)9263号>
〔すずらん介護サービス(森田ケアーズ)事件〕

事案の概要
 原告(在宅介護サービスの提供を主たる業務とする有限会社)の従業員であった被告乙川B子(以下「被告乙川」という。)が、その在職中に同種の事業を営む被告有限会社すずらん介護サービス(以下「被告会社」という。)を設立し、被告会社が営業を開始したところ、被告会社の営業が、原告と被告乙川との間の競業避止契約に違反しているとして、原告が被告会社に対し、その営業活動の差止めと、顧客を奪ったことの損害賠償を、また、被告乙川が退職の手続をとらなかったため、原告が被告乙川に対し、原告に生じた社会保険料の負担を損害として、その賠償を求めた事案

要旨
 在宅介護サービスを行う原告会社の従業員であった被告Aが在職中に被告会社Bを設立して原告と同様の営業をしたことによる原告から被告会社Bへの営業活動の差止及び損害賠償請求につき、原告と被告A間で適用となる就業規則に在職中及び退職後の競業避止義務が規定され、被告Aが原告への就職に当たり差し入れた誓約書にも退職後における競業避止条項があるところ、在職中の競業避止義務を負わせる点は公序良俗に反するとはいえないが、退職後に期間の定めなく広範囲(半径一〇キロメートル以内)で競業避止義務を負わせることは公序良俗に反するとした上で、被告Aが原告に在職中の競業行為により被った損害に限定して被告会社Bへの賠償請求を一部認容し、同社への営業活動の差止請求は棄却した事例

出典 労判 933号84頁

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第4 争点に対する判断
 1 争点(1)(原告の就業規則が定める競業避止義務(21条(12))及び本件誓約(甲5の5項)は有効か。)
  (1) 雇用契約では、その継続的な契約関係等の性質から、使用者と従業員との間に一定の信頼関係が存することが必要であり、使用者と従業員とが相互に相手方の利益に配慮して誠実に行動することが要請される。
 この使用者、従業員相互が誠実に行動すべしとの要請に基づく付随的義務として、従業員が少なくとも雇用関係の存続期間中は、使用者の営業上の秘密を保持すべき義務を負い、従業員は、使用者の利益に著しく反する競業行為を差し控える義務が、一般的に存するというべきである。
  (2) 第2の2(2)記載のとおり、原告の就業規則では退職の前後を問わず、また、本件誓約では退職後の競業避止義務がそれぞれ定められている。
  (3) 被告乙川が原告在職中に原告の利益に著しく反する競業行為を控える義務があることは、上記(1)のとおりであるから、在職中の競業避止義務については、原告の就業規則の定めが直ちに無効となるものではない。
  (4) 退職後の競業避止義務についてみると、その義務を負う期間について、就業規則、本件誓約ともに何らの限定は付されていない。また、競業を禁止する地理的な範囲については、原告の事業所から半径10キロメートルと制限されているが、この範囲は、原告の事業所のある台東区駒形から、東西は千葉県市川市付近から東京都中野区中野付近まで、南北は東京都足立区竹の塚付近から港区台場付近までを含むこととなる。
 本件誓約に従えば、被告乙川は原告退職後、期間の限定もなく、東京都区部の北東部の大部分の地域で介護サービス事業を営むことを禁止されることとなる。
 しかし、台東区内だけでも、介護事業サービス業の事業所が47箇所もあること(乙6、7)に照らせば、特定の地域に相当数の事業所があっても、介護サービス事業の公正・適正な競争を妨げる事情があるとはうかがわれないのだから、このような広範囲におよび、かつ、期間の限定もない競業避止義務を負わせることには、合理性が認められない。
  (5) したがって、被告乙川に対して、原告の就業規則で在職期間中に競業避止義務を負わせる点は、公序良俗に反するとはいえないが、退職後に期間の限定なく(就業規則及び本件誓約)、また、極めて広範囲で(本件誓約)競業避止義務を負わせることとなる点は、競業の営業の方法が、不正に原告の顧客を奪うとか、不正に原告の従業員を引き抜くなどの著しく違法な行為以外に対しては、公序良俗に反し無効なものである。

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