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平成18年 5月24日 東京地裁 決定(1/3)

平成18年 5月24日 東京地裁 決定 <平18(ヨ)21021号>
(教材開示等差止仮処分申立事件)

事案の概要
 債権者が,同社を退社した債務者に対し,債権者におけるプロジェクトマネジメント(以下「PM」という)の教育業務に関する教材及びその電子データの全部又は一部を第三者に開示及び提供してはならないこと,競業禁止の合意に基づき,退社から2年間,PMの教育業務及びコンサルティング業務に関する自己又は第三者の営業又は勧誘のために,債権者の顧客に対し接触してはならない,自ら又は第三者のためにPMの教育業務及びコンサルティング業務をしてはならないなどの仮の差止めを求めた事案

要旨
 プロジェクトマネジメント(PM)の教育業務及びコンサルティング業務について、退職後2年間の競業禁止合意が公序良俗に違反せず有効とされ、差止請求が認容された事例

出典 判タ 1229号256頁 判時 1956号160頁

評釈 高石直樹・判タ別冊 22号26頁(平19主判解)

ーーーーー
 1 前提事実(疎明資料等によって一応認めた事実は文末に疎明資料等を掲記し,当事者間に争いがない事実は,特段,証拠等を掲記しない)
・・・
  (3) 債権者における教材及びノウハウの占める地位について
・・・
  (4) 雇用契約の内容
 ア 債務者は,平成11年当時,日本NCR株式会社の社員であったが,同年にPMPの資格を取得した。債務者は,平成12年3月にはシダックスフードサービス株式会社に,同14年1月には中央青山監査法人にそれぞれ転職した。そして,債務者は,平成15年1月6日付けで,債権者に入社した。
 イ 債務者と債権者は,債務者入社に当たり,雇用契約書(以下「本件雇用契約書」)を取り交わし,相互に各1通を所持している。本件雇用契約書には,次の条項が記載されている(以下,債権者を「甲」,債務者を「乙」と表示している)。
 第6条【誓約】
 1.機密情報
 自己の利益を守るため甲が,多大の知識情報(以下,機密情報という)を保持しそれを独占的,排他的に活用すること,更に甲が係る機密情報の競業企業,または一般への漏洩を防ぐことが,甲の業務遂行上,絶対必要条件であることを乙は認識し,本契約を締結する。機密情報とは,研修コース教材,顧客リスト,支払スケジュール,価格体系,給与データ,見込顧客へのアプローチ方法
戦術,ビジネス戦略,ビジネスプラン,見込顧客へのプロポーザル等を含むが,これらに限定されない。乙は,理由の如何を問わず,本契約における雇用期間中ならびに契約終了後に,本契約業務遂行過程で入手した機密情報をいかなる第三者にも漏洩しないこと,及び私的もしくはその他の目的に利用しないことに同意し誓約する。
 2.甲の顧客との関係および競業の禁止
 雇用期間中,及び本契約解約後2年間,乙は,甲の業務において研修トレーニング,及びコンサルティング,またはその他の営業活動を行うことによって知り得た顧客(以下,甲の顧客という)に対し,乙個人として,または乙が他の企業に属し直接的,またはその企業の他の従業員を通して間接的に,甲の業務分野(PM関連)の営業・勧誘活動を行わないことに合意する。乙は,更に本契約解約後2年間は,甲の顧客が乙に要求した場合であっても,係る顧客に対して甲との契約義務により乙が甲の顧客に接触できない旨を説明し,同種業務分野のサービスの提供をしないことに合意する。乙はかかる事態が発生した場合,甲が甲の裁量で本契約書を当顧客に開示する権利を行使する事に合意する。
 3.知的財産権
 研修コース教材一式の著作権,及び知的財産権が甲に帰属することを確認し,乙の本契約における雇用期間中ならびに契約終了後に,甲の著作権,及び知的財産権の侵害となる一切の行為を行わない事に合意し誓約する。乙は,甲の研修コースに関する甲の所有するノウハウ並びに知的財産を具体化するケース・スタディの内容,シナリオ展開,シミュレーションの方法,及びテキストの表,図表,グラフ,一覧表,計算表,フローチャート,図式,又はツールキットのテンプレート,チックシート,ワークシート類,更にアセスメント・ツール,模擬試験問題,データ式等の他の研修教材を複製,翻訳,抄録,要約,拡大,改訂,改作,変形,翻案又は改変し類似研修教材を作成してはならないこと,類似研修プログラムを開発してはならないこと,或いは一般書籍を含む印刷物を出版してはならないことに合意し誓約する。
 4.誓約該当期間
 本条各項に関する事項は,本契約期間終了後も有効に存続するものとする。
 第7条【成果物の著作権及び使用権】
 本契約に基づく作業実施上発生する全ての著作権,又は二次的著作権,あるいは成果物一切の所有権は,甲に帰属するものとする。
 第8条【物品・資材・教材および文書類の返却】
 出版物,価格表,教材,マニュアル,通信文,プロポーザル,各種契約書の写し,支払スケジュール,鍵,出張旅費,経費の前渡金,コンピュータ・メモリ媒体,フロッピー・ディスク,および甲の業務に関連するその他の甲の資金で貸与された物品・資材はすべて,乙が準備したか,あるいは乙の所有となっているかどうかにかかわらず,本契約の解約,または甲の要求により,直ちに返却されるものとする。
 第9条【競合活動の禁止】
 乙は,甲に対する忠誠の義務を認識し,雇用期間中及び本契約解約後2年間は,甲のいかなる競合企業の業務を行わないこと,また,雇用期間中はいかなる競合組織の活動にも参加しないことに合意する。尚,本条に関する事項は,本契約期間終了後も有効に存続するものとする。
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