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平成18年 5月24日 東京地裁 決定(2/3)

平成18年 5月24日 東京地裁 決定

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(続き)
第3 理由の要旨
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 3 本件第2の申立てについて
  (1) 競業禁止の合意の成否について
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 ウ 以上によれば,債権者と債務者とは,本件雇用契約書どおりの内容の契約を締結したと認めるのが相当である。したがって,本件競業禁止条項の合意は成立したものとみるのが相当である。
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  (2) 本件競業禁止条項の有効性の存否について
 ア 判断基準
 会社が,労働者を雇用するに際し,比較的高度な情報に接する部署に勤務させる労働者との間で,退職後の競業を禁止する旨の合意をすることは世上よく見られる出来事である。このような競業禁止条項を締結する目的は,当該労働者が退職後に会社の顧客を奪うことを防止する点に狙いがあり,利益を追及することを目的とする会社にとっては,必要な防衛手段といえよう。しかし,競業禁止条項を設けることは,労働者の職業選択の自由を奪うことにつながることから,競業禁止条項を無制限に認めることはできず,無制限に認める競業禁止条項は,公序良俗に反し,無効というべきである。結局,競業禁止条項が合理的な内容であれば,その範囲内でかかる条項の内容は有効と考えるのが相当であり,また,合理的内容であるか否かを判断するに当たっては,@競業禁止条項制定の目的,A労働者の従前の地位,B競業禁止の期間,地域,職種,C競業禁止に対する代償措置等を総合的に考慮し,労働者の職業選択の自由を不当に制約する結果となっているかどうか等に照らし判断するのが相当と考える。以下,上記のような判断基準に照らし,本件競業禁止条項が有効か否かについて判断することにする。
 イ 本件競業禁止条項制定の目的
 前記前提事実,証拠(文末に掲記した)及び審尋の全趣旨によれば,次の(ア),(イ)の事実が一応認められる。
  (ア) 債権者の教材等の内容やノウハウには重要な価値があり,PMの教育業界における債権者と他の競業会社との間の選別,独自性を決定づける重要な要素となっている。このため,債権者は,これまで,同社の「ケース・スタディ」を受講者から必ず回収するなどして,厳格に秘密性を維持してきている。(前記前提事実(3)イ,ウ,甲6,15,27,審尋の全趣旨)。
 したがって,教材等の内容やノウハウを,今後も秘密として保持し,他の競業業者の手に渡らないようにすることは,債権者の正当な利益というべきである。そして,本件競業禁止条項は,上記のような債権者の正当な利益を保護するために,債権者が,入社する従業員との間で,入社に際し合意している。
 (イ) 本件競業禁止条項(第6条2項)は,債務者が債権者の顧客に対し営業活動をすることを禁止している(前記前提事実(4)イ)。
 本件競業禁止条項は,前記(ア)のとおり債権者の教材等やノウハウ等を守るための合理的な制限であり,債務者が債権者での勤務時間中に債権者の費用によって知り得た顧客は,いわば債権者の正当な「財産」であり,債権者を退職した従業員が同社の顧客に対し営業又は勧誘のために接触する等の行為をすることを禁ずることは,債権者の正当な利益の保護を目的としているということができる(審尋の全趣旨)。
 以上によれば,PMの教育業務,コンサルティング業務のように教材,ノウハウ等が重要な地位を占めている債権者においては,会社の存立基盤を維持していくには,債権者を退職した従業員が,勤務中に使用した債権者の教材,ノウハウ等を利用して競業を行うことを一定期間禁止する必要がある。そうだとすると,債権者において入社する従業員との間で本件競業禁止条項の合意をすることは,正当な目的があるということができる。
 ウ 債務者の債権者入社前の地位
 (ア) 証拠(甲27,28)及び審尋の全趣旨によれば,債務者は,債権者に入社する時点でPMの資格を有していたが,PMの教育業務及びコンサルティング業務に関する経験,ノウハウは持っておらず,債権者から教材やノウハウを付与され,これを利用してPM講座の研修に当たっていたことが一応認められる。
 そうだとすると,債務者に対し,退職後にPMの教育業務及びコンサルティング業務についての競業を禁止しても,就職前に債務者が行い得た業務が行えなくなるわけではないのであり,本件競業禁止条項が債務者の職業選択の自由を過度に制約しているとまでいうことはできない。
  (イ) この点に関し,債務者は,債権者に勤務する前から長年PM関係の業務に携わっていたのに,本件競業禁止条項が有効となると,現実には仕事に就くことができないことになり,債務者の職業選択の自由を不当に制限する結果となると主張する。しかし,上記のとおり,本件競業禁止条項によって制限されるのは PMの教育業務とコンサルティング業務であって,PMの業務そのものまで禁止されるわけではない。したがって,債務者が従前のPMの経験とスキルを生かしたいと考えるのであれば,その仕事に就くことまでを本件競業禁止条項は禁止していないのであり,この点の債務者の主張は理由がない。
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