ホーム > 一般民事・商事 > 退職後の競業避止義務 >  

平成18年 5月24日 東京地裁 決定(3/3)

平成18年 5月24日 東京地裁 決定

ーーーーー
(続き)
 エ 対象となる期間,地域,職種
 (ア) 前記前提事実,証拠(文末に掲記した)及び審尋の全趣旨によれば,一応,次の事実が認められる。
  a 本件競業禁止条項によれば,禁止期間は退職後2年間とされている。債権者と競業関係にあるケプナー・トリゴー・グループ日本支社長の辻本,プラネット株式会社の代表取締役中嶋は,いずれも,PMの教育業界においては教材等の知的財産権の保護が極めて重要であり,従業員には,退職後1年間又は一定期間,競業する事業に従事しないことを誓約させている。(前記前提事実(4)イ,甲17,18,審尋の全趣旨)
 b 本件競業禁止条項によれば,競業が禁止される地域については限定がない。ただし,本件競業禁止条項(第6条2項)によれば,債務者が,債権者の業務その他営業活動を行うことにより知り得た顧客に対し債権者の業務分野の営業・勧誘活動をしない旨合意されている。(前記前提事実(4)イ)
 c 本件競業禁止条項によれば,競業を禁止される職種は,債権者が事業展開しているPMの教育事業及びコンサルティング事業であり,PMそれ自体が禁止されるわけではない(前記前提事実(4)イ,審尋の全趣旨)。
  (イ) 以上によれば,本件競業禁止条項によれば,禁止される職種はPMそれ自体ではなくPMの教育事業及びコンサルティング事業に限られていること,PMの教育事業に関する業界においては教材等の知的財産権の保護が極めて重要であることに照らすと,競業禁止期間が2年間というのも,長すぎて,公序良俗に反するとまでは言い難い。問題は,本件競業禁止条項にいうところの「顧客」の意義である,債務者は,首都圏以外の会社,一度研修の途切れた会社まで債権者の顧客に含まれており,対象範囲が余りに広すぎると主張する。確かに,現在,債権者が営業中,商談中の会社,又は債権者の公開研修を受けたにすぎない会社まで債権者の「顧客」とするのは,広きに失すると思われる。債権者の「顧客」の概念の中には,既に,債権者の研修を受け,債権者との間に取引関係が形成されている会社と解するのが相当である。本件競業禁止条項は,以上のように合理的に解釈することができ,そうだとすると,対象が広すぎて,合理性を欠くとの債務者の主張は,理由がないということになる。

 オ 代償措置
 前記前提事実(5)イ及び審尋の全趣旨によれば,@債権者は,債務者に対し,平成15年度には合計1490万円(給与月額100万円+賞与290万円)を,同16年度には合計1620万円(給与月額100万円+賞与 420万円)を,同17年度には合計1400万円(給与月額90万円+賞与320万円)をそれぞれ支給したこと,A債務者の前記報酬は決して安くない額であること,B債権者は債務者に対し競業禁止や機密保持が雇用契約の重要な要素の一つであることを明示した本件雇用契約書を取り交わしていることが一応認められる。そうだとすると,債権者が債務者に支給した報酬の中の一部には,退職後の競業禁止に対する代償も含まれているというべきである。

 カ 小括
 以上イないしオによれば,@競業禁止条項制定の目的は債権者の教材等の内容やノウハウを保持し,他の競業業者の手に渡らないようにすることにあり,正当な目的であると評価できること,A債務者は債権者入社前にはPMの教育業務及びコンサルティング業務に従事した経験がなく,また,当該業務のノウハウを持っておらず,退職後2年間債権者において身につけたPMの前記業務を行うことを制限することには合理的理由があり,債務者の職業選択の自由を不当に制限する結果になっているとまでは言い難いこと,B競業禁止期間は債権者退職後2年間であり,同業他社も同様の規定を設けており,期間が長期間で債務者に酷にすぎるとまでは言い難いこと,C営業・勧誘活動を行ってはならない対象となる顧客は,これまで債権者の研修を受けるなど既に取引関係が形成されている会社を指し,そうだとすると,対象範囲が余りに広すぎるとはいえないこと,D債務者が債権者から支給された報酬の一部には退職後の競業禁止に対する代償も含まれているといえることなどを総合的に考慮すると,本件競業禁止条項は,労働者の職業選択の自由を不当に制約する結果となっているとまではいうことはできず,有効であると解するのが相当である。
・・・

タイトル
お名前
email
ご感想
ご確認 上記内容で送信する(要チェック


 


   ホーム > 一般民事・商事 > 退職後の競業避止義務 > 平成18年 5月24日 東京地裁 決定(3/3)