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H19. 9.19 東京地裁八王子支部判決 否定(死亡逸失利益につき)

平成19年 9月19日 東京地裁八王子支部 判決 <平17(ワ)1920号>
主位的請求一部認容、予備的請求一部認容
要旨
 被害者が死亡した交通事故につき、被害者の両親が、被害者の死亡逸失利益の15年間分を定期金賠償方式により、残額は一括賠償方式による支払を求めた事案において、不法行為に基づく損害賠償請求権は不法行為時に発生するため、死亡により被害者に一旦全損害が発生し、これを相続人が相続により承継取得すると理論的に考えられるから、民事訴訟でこれを行使する場合においても、全損害を算定した上で、一時金賠償を求めるのが理論的に一貫するのであって、死亡逸失利益につき定期金賠償方式を採用すべき特段の理由がない限り、これを採用することは相当でないところ、本件では特段の理由はないとして、定期金賠償方式を採用しなかった事例
 加害者が運転する普通貨物自動車が、幅員4.5メートルで指定最高速度20キロメートル毎時の道路を、40キロメートル毎時で走行していたところ、道路脇の駐車場から出てきた自転車搭乗の被害者と衝突し、被害者が死亡した事故につき、被害者の両親らが、加害者らに対し、損害賠償を請求したところ、過失相殺の有無及び程度が争われた事案において、加害者は本件駐車場から進行してくる被害者の動静に注意を払わず漫然と本件車両を運転して本件事故を惹起したのであるから、加害者の過失は大きいという他ないが、被害者も一時停止をせずに道路に進出した注意義務違反があるとして、過失相殺の割合を加害者85パーセント、被害者15パーセントとした事例
 事故により死亡した小学2年生の被害者(男・事故当時8歳)の逸失利益につき、18歳から67歳までの49年間、賃金センサス男性労働者年齢平均年収を基礎に、生活費控除率50パーセント、ライプニッツ方式により中間利息を控除して3026万6379円と計算した事例
 加害車両と自転車搭乗の被害者が衝突し、被害者が死亡した交通事故につき、死亡慰謝料として本人分2300万円、両親固有の慰謝料として各200万円を認め、兄固有の慰謝料については、弟を失った悲嘆の念、本件事故直後に受傷した弟を目の当たりにしたこと等の一切を事情を斟酌して100万円を認めた事例
(出典 交民 40巻5号1186頁、ウエストロー・ジャパン)
から

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 一 争点(1)について(原告X1及び同X2の主位的請求について)

 原告X1及び同X2は、Aの死亡逸失利益について、Aが一八歳から三二歳となる一五年間分は定期金賠償方式による支払を、Aが三三歳となる年にそれ以降の逸失利益を一時金賠償方式による支払を求めると主張するため、以下検討する。

  ア 本件で問題とされる不法行為に基づく損害賠償請求権は、不法行為時に発生することから、死亡により被害者に一旦全損害が発生し、これを相続人が相続により承継取得するものと理論的には考えられるから、民事訴訟においてこれを行使する場合においても、全損害を算定した上で、一時金賠償を求めるのが理論的に一貫するのであって、死亡逸失利益について定期金賠償方式を採用すべき特段の理由がない限り、これを採用することは相当ではない。

  イ これに対し、原告X1及び同X2は、不法行為による損害賠償においては、不法行為時に全損害が発生し、全損害の賠償義務が遅滞に陥ることになるが、その具体的給付方法について、法は特段の規定をしておらず、死亡逸失利益と将来の介護費用とに差異はないから、介護費用と同様死亡逸失利益についても定期金賠償を採用すべきであると主張するので検討する。

 まず、損害賠償については、法は定期金賠償方式による判決を行い得ることを予定しており(民事訴訟法一一七条)、口頭弁論終結後に、著しい事情変更が生じた場合には、判決の変更を求めることを容認している。

 そして定期金賠償方式は、被害者に後遺障害が残った場合の将来の介護費用のように、将来、被害者において具体的に発生する損害で、将来の事情変更等により後遺障害の程度が進行したり軽減ないし消滅することがあり得ることから、このような裁判時に予測し難い事情変更に対応することを想定して規定されたものと解される。すなわち、将来の損害額が大きく異なることもあり得る場合において、事情変更を考慮して確定判決を変更することを通じて賠償額の調整をし、もって当事者の衡平を図るのがその制度趣旨であると考えられるのである。

 これに対し、死亡逸失利益については、将来の介護費用のように、将来予測し難い事情の変更が生じる可能性は想定し難いものであることから、事情変更に対応して賠償額の調整を図る必要性を認め難いのであって、定期金賠償方式によるべき特段の理由はない。

 すなわち、将来の介護費用については、損害算定の基礎となる事情が将来変更しうるのに対し、死亡逸失利益については、そのような事情が将来変更するものとは想定し難い点において、基本的な差異が認められることから、定期金賠償による必要性の有無が異なってくるものというべきである。

  ウ さらに、原告X1及び同X2は、死亡逸失利益は、被害者が死亡していなければ各年において定期的に発生していたはずの利益であるから、死後定期的に具体化すると観念することができ、定期金賠償方式の方が正確性に優れているとも主張する。

 しかしながら、被害者が死亡して相続が発生していることを前提としつつ、逸失利益のみが将来定期的に発生すると観念すること自体、理論的整合性に欠けるものである上、前述のとおり死亡逸失利益についての将来事情の変更は想定し難いのであるから、これを定期金賠償とすることで、より損害の正確な算定ができることになるものではないというべきである。

  エ 原告X1及び同X2は、死亡逸失利益について定期金賠償を求める実質的根拠として、法定利率と実勢利率の乖離の問題の解消になる旨も主張する。

 しかしながら、中間利息の控除率の問題については、控除率自体の合理性の問題であり、定期金賠償を認めることにより解消すべき問題とは言い難く、同原告らの主張は採用できない。

 以上によれば、死亡逸失利益について定期金賠償方式によるものと解すべき特段の理由はないというべきであるから、原告X1及び同X2の定期金賠償を求めることを前提に構成した主位的請求には、その余の点を判断するまでもなくいずれも理由がない。
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