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H15. 7.29 東京高裁判決    余命(通常の計算)

平成15年 7月29日 東京高裁 判決 <平14(ネ)5039号>
一部変更、一部控訴棄却、確定
要旨
 交通事故の被害者が一時金賠償方式による支払を求めている場合に、将来の介護費用について定期金賠償方式による支払が命じられた事例
 いわゆる植物状態になった交通事故の被害者については、余命期間にわたり継続して必要となる将来の介護費用という損害の性質に即して定期金賠償方式を採用することはそれによることが明らかに不相当であるという事情のない限り合理的であるから、損害賠償請求権者が一時金賠償方式による支払を求めている場合でも、定期金賠償方式による支払を命ずるのが相当である。
損害賠償請求権者が一時金賠償方式による支払を請求している場合でも、判決において定期金賠償方式による支払を命ずることができる。
(裁判経過  第一審 平成14年 8月30日 千葉地裁八日市場支部 判決 平12(ワ)48号)
(出典 判時 1838号69頁、ウエストロー・ジャパン)
(評釈 金田洋一・判タ臨増 1184号94頁(平16主判解)、菱田雄郷・ジュリ臨増 1269号134頁(平15重判解)、小賀野晶一・判評 546号7頁(判時1858号169頁))
から

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  一 被控訴人花子の推定余命について

 控訴人は、被控訴人花子がいわゆる植物状態にあることから、その生存余命は現在の医療・社会環境である一定の規則に従って、通常人よりも短く、被控訴人花子の推定余命年数は、せいぜい症状固定時から一〇年間と認定すべきである旨主張する。

確かに、《証拠省略》によれば、統計的には、一般的に植物状態の患者の生存率は年数を経過するにつれて低下し、平均余命は通常人に比較してかなり短く、平成4年自動車事故対策センターの寝たきり者に関する資料に基づけば、事故時40歳代の事故後6年経過時点における平均余命等は次のとおりであることが認められる。
   @ 5年後の生存率は〇・四四六、死亡率は〇・五〇五である。
   A 10年後の生存率は〇・二四七、死亡率は〇・六六〇である。
   B 15年後の生存率は〇・一三三、死亡率は〇・七七四である。
   C 20年後の生存率は〇・〇七一、死亡率は〇・八三六である。
   D 平均余命は六・七年である。

 《証拠省略》を併せると、被控訴人花子は、本件事故直後からの昏睡状態という高度意識障害が遷延している臨床経過や平成9年10月25日以降における3度の頭部MRIに認められる両側大脳と脳幹の萎縮などの画像所見から、びまん性軸索損傷の障害があると考えられ、後遺障害診断書では失外套状態にあると診断されたこと、しかし、既に本件事故時から6年以上、症状固定時から5年以上が経過しているが、被控訴人花子の本件事故後における身体の状態は、九十九里病院の看護状況のほか被控訴人花子の母被控訴人梅子、長女被控訴人一江、二女被控訴人二江、兄A野竹夫らの献身的看護もあって、安定しており、これまでに生命が危険になるような感染症(肺炎、尿路感染、褥瘡、胃瘻部感染、敗血症など)を併発したことはなく、現在も直ちに生命の危険を推認させる事情は見当たらないこと、以上の事実が認められる。
そうすると、被控訴人花子の推定余命年数は、植物状態の寝たきり者について推定余命が短いとの統計的な数値のみで症状固定時から10年程度であると推測することはできないが、同寝たきり者について推定余命が短いことは統計的に認めざるを得ない。

 しかしながら、被控訴人花子の現実の余命は本件事故によって短くなったのであり、そのこと自体による被控訴人花子の逸失利益の喪失も本件事故と相当因果関係があるから、結局、被控訴人花子の逸失利益の損害は本件事故前の被控訴人花子の統計的稼働年数を基に算定すべきことになる。被控訴人花子の本件事故後の現実の余命の減少は、将来の介護費用損害の算定に大きく影響を及ぼす可能性があるから、その損害賠償方式において考慮すべき事柄である。
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