ホーム > 人身損害(交通事故など) > 遷延性意識障害(植物状態) >  

H18. 9.27 千葉地裁佐倉支部判決 余命(通常の計算)

平成18年 9月27日 千葉地裁佐倉支部 判決 <平16(ワ)31号>
(一部認容)
要旨
 交通事故により脳挫傷等の傷害を負い遷延性意識障害等の後遺障害を残すに至った場合において、被害者が平均余命の間生存して自宅で介護を受けることを前提に、将来の付添介護料を1億3400万円余と算定し、上記後遺障害の程度が重篤であること、加害者が酒気を帯びて制限速度を超える速度で自動車を走行させて前方注視を怠った過失があること等を考慮して、後遺障害に係る慰謝料を3200万円と算定し、加害者に対し、被害者及びその近親者に合計3億円余の賠償金の支払を命じた事例
(出典 裁判所サイト、判時 1967号108頁、自動車保険ジャーナル 1682号17頁、ウエストロー・ジャパン)
(評釈 野口恵三・NBL 865号62頁)
から

ーーーーー
 c 余命について

 被告は,原告Aの重篤な病態に照らし,その余命は症状固定日から約10年間と推定すべきであると主張し,これに沿う証拠(O意見書・乙4,P論文・乙16,Jセンターによる外傷性植物症患者の生命予後・乙30,N意見書・乙31等)を提出する。

 しかし,O意見書は,その根拠の一つを,植物状態になると感染症や褥創が起こりやすくなることに置くものであるところ,このような症状は,十分な介護によりその危険性を低減させることが可能であるから,同意見書がそのような十分な介護が実施された場合の余命についてまで及び得るかについては疑問なしとし得ない。

 また,O意見書も引用してその根拠の一つとしているP論文は,自動車事故対策センターの寝たきり者1898例を基に生存余命を推定するものであるが,寝たきり状態を脱却した者の脱却以後の生存期間が計算に入っていないものであるため,これを根拠に寝たきり者の生存余命が短いとすることには疑問がある。

 N意見書(乙31)も,P論文を前提にして原告Aの余命を7年程度と推定しつつも,余命は療養場所によって変わる可能性があり,植物状態からの脱却の可能性も残されているとするものであるから,これをもって原告Aの余命が短いとみることはできない(なお,同論文は,そのような観点から前記の自宅介護を不相当とする結論を導くのであるが,その結論を採用できないことは前記のとおりである。)。

 むしろ,Jセンターによる外傷性植物症患者の生命予後(乙30)は,脳損傷により植物状態の介護料受給者の平均死亡率が15.2%であるのに,同センターでの年間死亡率は1.2%であるとして,十分な介護・医療により良好な生命予後を実現しているとしており,適切な環境設定により死亡率を低くすることができることが窺える。

 そして,原告Aに対しては,感染症や褥創を防止するための措置が採られ,現在の病状は安定しており,自宅介護に移行した後も,これと同程度の環境が整えられるべく計画されていることは前記認定のとおりであり,その生命予後が不良であることを窺わせるような具体的な事情は見出せない。

 以上を総合するに,原告Aが平均余命まで生存することができないと認めることはできないというべきであるから,同原告の将来の付添介護料を算定するにあたっては,平均余命を用いるのが相当であり,簡易生命表を用いて症状固定時38歳であった同原告の余命を41年間とみるのが相当である。

 d 将来の付添介護料の算定について

 以上のとおり,自宅介護を前提に,平均余命を用いて,原告Aの将来の付添介護料を算定することとし,具体的には,以下の方法によることとする。

  (a) 原告C(症状固定時61歳)が67歳になるまで
 原告Aが症状固定後本件口頭弁論終結時に至るまで病院に入院しその基本的な介護は各病院の看護師らによって行われてきたこと,原告Aの家族がほぼ毎日同原告に付き添い,介護の補助を行ってきたこと,自宅介護に移行した後は,原告Cが67歳になるまでは同原告が中心になって介護を行う予定であることは前記認定のとおりであり,証拠(甲3,証人I)及び弁論の全趣旨によれば原告Cが昭和16年3月28日生まれであり,原告Aの症状固定時61歳,本件口頭弁論終結時65歳であることが認められる。
 そうすると,症状固定時から原告Cが65歳までの4年間については,病院における家族介護料として,その日額を6500円として,その後の原告Cが67歳までの2年間については,前記認定の原告Aの介護の内容に照らし,自宅における家族介護料として,その日額を1万円として,介護費用を算出するのが相当であり,その額は,ライプニッツ係数を用いた以下の計算式のとおり,合計1399万6052円となる。
 6500円×365日×3.5459
 +1万円×365日×(5.0756−3.5459)
 =841万2647円+558万3405円
 =1399万6052円

  (b) 原告Cが67歳になって以降原告Aの余命期間まで
 原告Aの家族が同原告を自宅で介護したいという強い希望を有し,原告Cが67歳になって以降は原告Aの妹であるIが中心になって介護を行うとともに,看護資格のある職業介護人を依頼する予定であるとの前記認定事実に加え,証拠(甲18の1ないし4,証人I)及び弁論の全趣旨によれば,Iは,現在37歳で,原告Aの介護のために就労を中断しているが,今後は就労し,自らの生計を立てる必要があること,看護婦家政婦紹介所から原告Aの家族に対し,職業介護人の費用として1日3万8076円を要するとの計算書が提出されていることが認められる。
 この点,Iが就労して収入を得る道を奪われるべき理由はないから,原告Cが67歳になって以降については,基本的に職業介護人による介護を前提に介護料を算出すべきであり,かつ,原告Aの症状及び同原告に対する介護の内容に照らせば,職業介護人の費用が1日3万8086円を要するとの看護婦家政婦紹介所の計算書の内容もあながち不合理なものともいえないが,他方で,同人ら原告Aの家族の自宅介護に対する熱意に照らせば,家族が相当の役割を果たすことが見込まれるから,24時間365日にわたって職業介護人による介護が必要であるとみることは,損害の公平な分担の観点からいって相当でない。そこで,原告Cが67歳になって以降原告Aの余命期間までの35年間(症状固定時からの余命期間41年間から原告Cが67歳になるまでの6年間を控除した期間)については,職業介護人及び家族による介護料として,その日額を原告ら請求日額の約7割に相当する2万7000円とみて,介護料を算出するのが相当であり,その額は,ライプニッツ係数を用いた以下の計算式のとおり,合計1億2487万5114円となる。
 2万7000円×365日×(17.2943−5.0756)=1億2041万5288円
  (c) 小計 1億3441万1340円
ーーーーー

タイトル
お名前
email
ご感想
ご確認 上記内容で送信する(要チェック


 


   ホーム > 人身損害(交通事故など) > 遷延性意識障害(植物状態) > H18. 9.27 千葉地裁佐倉支部判決 余命(通常の計算)