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H18. 3. 6 東京地裁判決(1/2) 余命(通常の計算)

(医療事故例)
平成18年 3月 6日 東京地裁 判決 <平15(ワ)17379号>
(一部認容、確定)
要旨
 原告が被告病院において入院加療中、装着された気管カニューレが痰によって閉塞したことにより窒息して低酸素脳症に陥り植物状態になったなどとして、被告病院に損害賠償の支払いを求めた事案につき、被告病院の医師らは、本件事故当時、少なくとも原告の呼吸状態を綿密に観察するとともに、頻回に、痰の吸引、気管カニューレの交換を行い、痰による気道閉塞及び呼吸困難を防止すべき注意義務を負っていたところ、これを怠ったとして過失が認められた事例
 本件事故前から別の障害を持っていた原告の逸失利益の算定につき、損害の性質上その額を立証するのが極めて困難であるときに該当するとされた事例
(出典 裁判所サイト、判タ 1243号22頁、ウエストロー・ジャパン)
(評釈 金田健児・民事法情報 259号45頁)
から

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 3 そこで、本件事故により原告らが被った損害額(争点3)について検討する。
  (1) 治療関係費 502万1296円
   ア 既払分(平成16年10月31日まで)
<中略>
   イ 将来分(平成16年11月1日以降)
 原告X1の将来における治療関係費は、同人の遷延性意識障害の状態が固定したと考えられる時期において必要となることが見込まれる医療費を基礎とするのが相当である。
 このような観点から検討すると、原告X1は、桜会病院に対し、平成15年5月1日から平成16年4月30日までの1年間に医療費として29万0830円を支払っている(甲C7の1ないし25)ので、これを基礎にして算定するのが相当である。
 そして、平成16年11月1日当時、原告X1は60歳であり、その平均余命は27年余であるから、27年に対応するライプニッツ係数である14.6430により中間利息を控除して、平成16年11月1日以降の医療費の現価を算定すると、その額は次のとおり算出されるので、425万円をもって損害と認める(こうした方式による損害の算定においては、その性質に照らし、算出の結果得られた数値の1万円未満を切り捨てることとする。)。
 29万0830円×14.6430=425万8623円
<中略>
  (3) 逸失利益 1500万円
   ア 証拠(甲A5、甲B6及び乙A6)によれば、原告X1は、低酸素脳症による遷延性意識障害を残しており、いわゆる植物状態となっているが、今後も現在の状態から大きく改善することはないと認められるから、その障害は後遺障害等級1級に該当し、労働能力は100%喪失しているものと認められる。

   イ ところで、原告X1は、前記前提となる事実(第2の1)のとおり、2月11日の日医大入院時、既に視床出血及び脳室内穿破による障害を負っていたので、本件障害の算定に当たっては、この点についても考慮する必要がある。
   (ア) 前記第2の1(2)アで認定した事実及び証拠(甲B14、17、19、乙A1、6、B11、12)によれば、原告X1が平成14年2月に日医大に入院した当時の障害の状況について、以下の事実が認められる。
 a 原告X1は、平成元年ころ、くも膜下出血を発症し、クリッピング手術を受けた。また、平成12年12月ころ、交通事故による外傷性脳内出血と骨盤骨折のため、日医大に入院したことがあった。
 さらに、原告X1は、2月11日、自宅のトイレで倒れたため、救急車で日医大に運ばれ、そのまま入院した。入院時の原告X1の症状は、意識障害と右片麻痺であり、左視床出血及び脳室内穿破と診断され、血圧コントロールによる保存的治療が行われていた。
 しかしながら、原告X1は、2月11日の左視床出血発症以前は、他人の手を借りることなく乗馬及びリフトの乗降等を行うなど、既往症であるくも膜下出血等の影響は少なく、むしろ一般の日常生活における一通りの判断力及び活動性は保たれていた。
 b 2月11日の日医大入院時、原告X1の意識レベルは、グラスゴー・コーマ・スケール(意識障害の評価分類。開眼機能E、言語機能V及び運動機能Mをそれぞれ評価するもので、合計点数が小さいほど重症である。)で「E3V1M4」(8点)であったが、同月21日には「E4VTM6」と回復し、3月1日の被告病院転院時においても「E4VTM6」であった。なお、「VT」とは、気管切開のために発語状態の評価が不可能であることを示すが、原告X1は、被告病院入院時に医師により「簡単な命令に従う」、「話して理解できる」旨判断されており、また、被告病院入院後、家族に対し、かすかな声で「ありがとう」、「C、D」等と述べており、簡単な会話が正確にできているので、言語機能についてはV5と評価することができる。また、原告X1には、脳内出血における予後不良因子とされる知覚及び認知障害も特段見られず、その意識レベルは着実に向上していた。
 c また、右麻痺については、MMT(徒手筋力テスト)が2月14日には「0」であったが、同月21日ころには少なくとも「1〜2
5」までに回復しており、一般に麻痺の回復が不良とされる完全麻痺が3週間以上にわたって持続する状況にはなかった。
 d さらに、原告X1は、被告病院に転院されたときにはリハビリテーションが行える状況にあり、被告病院において、理学療法としてマッサージ程度以上のリハビリが施行された。
<続く>
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