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H18. 3. 6 東京地裁判決(2/2)

前掲
(医療事故例)
平成18年 3月 6日 東京地裁 判決 <平15(ワ)17379号>
から


ーーーーー
<続き>
   (イ) ところで、原告X1が2月11日に日医大に入院した当時負っていた障害について、本件事故が発生しなかったと仮定してその予後を予測することは、発症後3週間余りの時点で本件事故に遭っているため、事柄の性質上困難を伴う面があるといわざるを得ない。しかしながら、上記(ア)認定事実に加え、乙B11及び12(本件を調停に付した手続において専門的な知識経験に基づく意見を聴取した過程で提出された民事調停委員E作成の意見書)をも総合的に検討して、その予後を予測すると、長期的には、原告X1の日常生活動作は半介助ないし軽度介助という程度にまで改善することが期待できたものと判断される(それ以上に身辺の自立ができる可能性についても、補装具着用を要するとしても、完全には否定しきれない。)。そして、これを後遺障害等級に当てはめると、7級(この労働能力喪失率は56%とされている。)程度に該当するものと判断される。
 この点について、被告は、原告X1の従前の脳内出血による後遺障害は重症であり、後遺障害等級3級又は5級に該当する旨主張し、乙B9及び乙B10の1(F作成の意見書)中にはそれに沿う記載が存在する。しかしながら、上記認定のとおり原告X1の意識レベル及び右麻痺等は着実に改善していたこと、寝たきりの場合に発生する易感染症及び床ずれ等の合併症についても、上記原告X1の回復経過に照らせば、同人に寝たきりの状態が長期間継続してそのような合併症が発生するに至る可能性は高くないと考えられることなどのほか、上記E意見書の内容に徴すると、被告の上記主張は採用できない。

   (ウ) 原告X1の逸失利益の算定においては、上記(イ)で検討した問題に加え、本件事故発生前に同人が負っていた障害が、どのような過程を経て、何時症状が固定するに至るのかを明らかにすることも課題となるが、本件においてこのような予測を立てることには相当な困難を伴うといわざるを得ない。こうしたことを総合的に考慮すると、原告X1の逸失利益については、損害の性質上その額を立証することが極めて困難であるとき(民訴法248条)に該当するものというべきである。

 ところで、a 仮に、上記回復に至るまでの期間を1年と仮定して、原告X1が本件事故により喪失した逸失利益のうち、上記程度に回復した後の後遺障害に伴うそれを試算すると、次のとおりとなる。すなわち、本件事故後1年経過した平成15年3月当時、原告X1は59歳近くに達しているので、その平均余命は29年余であるから、一般的には、その2分の1程度の14年間を上記逸失利益算定の対象期間とすることになる。そして、平成15年の賃金センサスによれば、その平均年収は349万0300円であるから、これを基礎にして、一般的な方法により逸失利益の現価を算定すると、14年に対応するライプニッツ係数である9.8986により中間利息を控除することになるので、以下のとおり算定される。
 349万0300円×(1−0.56)×9.8986=1520万1596円

 なお、b 被告は、もともと原告X1は、相当の介助を要する状況にあったのであるから、家事労働者としての逸失利益の損害は発生しない旨主張する。
しかしながら、上記(イ)認定のとおり、原告X1の日常生活動作は半介助ないし軽度介助という程度にまで改善することが期待できたものと判断される(それ以上に身辺の自立ができる可能性についても、補装具着用を要するとしても、完全には否定しきれない。)のであるから、少なくとも家族の協力を得るなどして、その能力相応の家事を遂行することはなお可能であったというべきである。そうすると、原告X1は、本件事故によりこのような内容・程度の稼働能力を喪失させられたものと認めるのが相当であるから、被告の上記主張は採用できない。

 また、c 被告は、原告X1は医療施設への収容入院が不可欠であるから、その生活に必要な費用は、医療施設への収容入院に伴う医療費用とその他の関連諸費用に限られるので、そうした費用を損害として認めるときには、逸失利益の算定に当たって、相当割合の生活費を控除すべきである旨主張する。
しかしながら、生活費は、必ずしも稼働能力の再生産費用だけを内容とするものではなく、また、原告X1の入院雑費の内容は、オムツ代、病衣等のみを基礎とするものであり、その余の費用についてはなお逸失利益中から生活費として支出されることが見込まれる。そうすると、逸失利益の算定に当たり、生活費を控除することは相当でなく、被告の上記主張は採用できない。
 そこで、当裁判所は、以上の認定説示、特に、原告X1の左視床出血発症前の状況、左視床出血発症後の回復の状況及びその予後の見通し並びに弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づいて、原告X1が3月6日の本件事故により喪失した逸失利益相当額の損害額を1500万円と認定することとする。

 (四) 原告らの慰謝料
 以上認定した諸事実、特に、原告X1は、被告病院の医師らから適切な呼吸管理を受けられずに、気管カニューレに痰を詰まらせて窒息し、低酸素脳症による遷延性意識障害となり、いわゆる植物状態となっていること、他方、もともと原告X1は、2月11日の日医大入院時、既に視床出血及び脳室内穿破による障害を負っていたものであり、その予後は上記 (3)認定のとおり見込まれることのほか、本件事故後の原告X2及び原告X3による看護の状況、その他本件に現れた一切の事情を考慮すると、本件事故により原告らが被った精神的損害を慰謝するには、その慰謝料を、原告X1は2000万円、原告X2及び原告X3はそれぞれ400万円と認めるのが相当である。
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