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高次脳機能障害についての知見 H18. 5.26 札幌高裁判決から(1/3)

平成18年 5月26日 札幌高裁 判決 <平16(ネ)60号 ・ 平16(ネ)272号>
交通事故による損害賠償請求控訴、附帯控訴事件 一部変更、一部控訴棄却、上告、上告受理申立て
要旨
 交通事故により被害者(女・症状固定時17歳)高次脳機能障害を負ったことを認め、損害賠償請求等を認容し、損害賠償額を変更した事例
 交通事故によって判示の如き頸椎捻挫の傷害を負った被害者について高次脳機能障害が認められた事例
裁判経過  第一審 平成15年12月18日 札幌地裁 判決 平14(ワ)5031号
(出典 裁判所サイト、判時 1956号92頁、ウエストロー・ジャパン)
から

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第3 裁判所の判断
 1 前提事実に加えて,後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。

  (1) 高次脳機能障害について

   ア 定義
 認知(高次脳機能)とは,知覚,記憶,学習,思考,判断などの認知過程と行為の感情(情動)を含めた精神(心理)機能を総称し,病気(脳血管障害,脳症,脳炎等)や事故(脳外傷)によって脳が損傷されたために,認知機能に障害が起きた状態を高次脳機能障害という。(乙4)
 交通事故による頭部外傷後に生ずる記憶障害や人格変化を主徴とする高次脳機能障害は,脳卒中等による局在性脳損傷から生ずる失行,失認,失語といった大脳巣症状や従来の高次脳機能障害とはやや趣が異なっているところから,新たに脳外傷による高次脳機能障害と呼ぶ見解もある。(乙5)
 財団法人日弁連交通事故相談センター札幌支部及び札幌弁護士会法律相談センター運営委員会が発行している「高次脳機能障害相談マニュアル」によれば,高次脳機能障害とは「交通事故によって脳に対する強い外力が加わり,その結果,通常は画像で脳の萎縮や脳室の拡大が認められるのが特徴で,一定期間以上の意識障害が持続した結果発生する認知障害と性格や人格変化が残る障害で,びまん性軸索損傷・びまん性脳損傷による後遺障害」であるとされている。(甲42)

   イ 脳損傷のメカニズム(甲14の文献3,文献5)
    (ア) 脳外傷は,何かで頭を殴られたり,交通事故で自動車のフロントガラスに前頭部をぶつけたり,直接的にしろ間接的にしろ頭部に強い衝撃が加わって発生する。外傷による脳損傷の特徴は,例えば脳卒中のように病変がどこか1か所ではなくて,種々の病変が多発性に見られることである。しかし,その発生機序は,大きく分けて接触損傷と加速損傷の2つに分類される。
    (イ) 接触損傷
 物が頭部に当たった場合,頭蓋骨がたわんで脳にぶつかり,その部分の脳が破壊されて脳挫傷となる(局所性脳損傷)。
    (ウ) 加速損傷
 頭部に衝撃を受けた瞬間,ふつう頭部は移動する。そのとき頭蓋骨は脳よりも速く移動するため頭蓋骨と脳は互いに衝突する(直撃損傷)。また,直撃部の反対側の脳は頭蓋骨の動きに対し,元の位置を保とうとするので,頭蓋骨と脳の間が陰圧となって(空洞現象)脳が損傷される(対側損傷)。
 加速によって脳損傷が起きるもう1つの機序は,脳が均一な構造物ではないために,脳に衝撃が加わって移動する時,脳内部に相対的なずれ(せん断ゆがみ)が起きることである。例えば,自動車に乗っていて正面衝突した場合,頭部には前後に激しい衝撃が加わるが,そのとき頭部は頚部を支点にして前屈,後屈と強い回転加速度を受ける。脳幹部,すなわち,回転の支点に近い脳と前頭部から頭頂部にかけての支点から遠い脳では,遠い脳の方がはるかに速く移動しなければならない。したがって,回転加速度がある程度以上大きくなると,脳はその形を保ったまま移動できなくなり変形する。このとき脳内部にずれが起きて神経線維が切れてしまう。臨床的には,びまん性軸索損傷の発生機序として重要である。
 びまん性軸索損傷は,自動車事故で頻繁に起きるとされている。

   ウ びまん性軸索損傷の特徴(甲14の文献3)
 びまん性軸索損傷は,臨床的には何ら頭蓋内占拠性病変が伴わないのに,受傷直後から高度の意識障害が続くような状態と定義される。言い換えると,コンピュータ断層撮影法(以下「CT」という。)などで調べても明らかな脳挫傷や頭蓋内血腫がないにもかかわらず,昏睡が続いている状態のことをさす。最近の研究によれば,受傷直後に断裂する神経軸索はむしろ少なく,少し遅れて軸索の断裂が起きると考えられている。また,CTや磁気共鳴映像法(以下「MRI」という。)で両側性の脳腫張や脳梁,脳室周囲,上部脳幹部に散在性の出血や挫傷像を見ることも多いが,何ら異常認めないこともある。また,軸索損傷という病態は,そんなに重症な場合のみに見られるとは限らない。脳震とうは,びまん性軸索損傷のごく軽症型とも考えられる。
 びまん性軸索損傷の診断は,臨床的に難しい場合が多々あるということが重要である。その理由は2つある。第1は,びまん性軸索損傷は,局所の脳損傷(脳内血腫や脳挫傷等)と違ってCTやMRIを用いても異常がはっきりしない場合が多く,症状も非常に多彩であるから,症状と一致した客観的証拠が得られにくいという点がある。第2は,びまん性軸索損傷の重症度にもいろいろな程度があり,受傷直後から高度の意識障害があり,それが遷延するような重症な場合は,CTやMRI上で異常所見がなくてもびまん性軸索損傷の存在の予測がつくが,中等度又は軽度のびまん性軸索損傷では意識障害も比較的早く回復し,CTやMRI上で異常がなければ脳外傷はないと急性期には見過ごされる可能性がある。
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