ホーム > 人身損害(交通事故など) > 高次脳機能障害 >  

高次脳機能障害についての知見 H18. 5.26 札幌高裁判決から(2/3)

前掲
平成18年 5月26日 札幌高裁 判決 <平16(ネ)60号 ・ 平16(ネ)272号>
から

(続き)
ーーーーー
   エ 高次脳機能障害の外見的所見
 高次脳機能障害がびまん性軸索損傷によるものである場合,損傷を受けた軸索がワーラー変性(神経線維の損傷により末梢の線維に栄養が行かないため変性し最終的に軸索が萎縮し破壊される。)により萎縮破壊され,また,外傷の急性期での呼吸障害等による脳全体の低酸素障害等も相まって,脳萎縮(脳の白質及び灰白質の萎縮)や脳室拡大(脳の白質の萎縮が進むため脳室が大きくなるので,厳密には脳室拡大は脳萎縮の特殊型といえる。)が生じ,これが慢性期に至ってMRIによる画像やCTによる画像等により外見上の所見として明らかになることがある。(甲14の文献3)
 しかし,損傷を受けた軸索の数が少ないため,慢性期に至っても外見上の所見では確認できないが,脳機能障害をもたらすびまん性軸索損傷が発生することもあり得る。このような場合は,神経心理学的な検査による評価に,陽電子放射断層撮影(以下「PET」という。)による脳循環代謝等の測定結果を併せて,びまん性軸索損傷の有無を判定していくことになる。
 外傷性による高次脳機能障害は,近時においてようやく社会的認識が定着しつつあるものであり,今後もその解明が期待される分野であるため,現在の臨床現場等では脳機能障害と認識されにくい場合があり,また,昏睡や外見上の所見を伴わない場合は,その診断が極めて困難となる場合があり得る。

   オ 高次脳機能障害の症状(甲14,42,74,乙4)
 障害の臨床像としては,注意力や集中力の低下,古い記憶は保たれているのに新しいことが覚えられない,感情や行動の抑制が利かなくなる,よく知っている場所や道で迷う,言葉が出ない,ものによくぶつかる等の症状が現れ,周囲の状況に見合った適切な行動がとれなくなり,生活に支障を来すようになる。
 そして,外傷性の高次脳機能障害による症状は,主として,認知障害と人格変化であり,認知障害としては,記憶障害,注意障害,遂行機能障害(前頭葉機能障害)があり,人格変化としては,行動・情緒障害がある。その他の症状としては,失語症,空間,病態,相貌の失認症,失行症もある。

   カ 認定又は診断の目安
 上記の「高次脳機能障害相談マニュアル」によれば,高次脳機能障害に該当するかどうかのメルクマールとして,@交通事故による脳の損傷があること(画像所見で,微細なものでも脳萎縮又は脳室の拡大が少なくとも3ないし4か月後以内に確認されること),A一定期間の意識障害が継続したこと(頭部外傷の意識障害として半昏睡から昏睡で開眼,応答しない状態,刺激をしても覚醒しないが,痛みや刺激に対し払いのけるような動作をするレベルが6時間以上継続すること),B一定の異常な傾向が生じることの事項に該当する場合,高次脳機能障害の可能性があるとされ,同様の基準を示した裁判例(甲13)もある。(甲13,42)
 ただし,Aのメルクマールに関して,意識障害を伴わない軽微な外傷でも高次脳機能障害が起きるかどうかについては見解が分かれており,「5分間程度の短期間の意識消失が起こる軽度頭部損傷でも,より軽い軸索損傷は起こることが明らかになっている」とする文献や似たような記述の文献もあるとの指摘がある。(甲14)

   キ 本件で用いられた画像診断等の内容(甲14,28ないし31,79,弁論の全趣旨)
 なお,脳の形態と機能を部位的に調べるために現在使われている技術のどれであっても,脳障害の範囲の正確な像を得ることは,通常可能ではない。
    (ア) MRI
 磁場を用いて生体の断層像を撮影する。
    (イ) PET
 代謝経路の明らかな標識化合物(半減期が短い)を生体に投与し,その核種が崩壊する過程で放出する陽電子が消滅する際に出る電磁波により,投与した標識化合物の位置と量を検出し,これを画像で表示して代謝や脳の血流量等を測定する。
    (ウ) 単一ガンマ線放射断層撮影(以下「SPECT」という。)による3次元脳表層血流画像解析(以下「3D−SSP」という。)
 生体と近縁でない標準化合物(半減期が長い)を生体に関与し,その核種が放出するガンマ線を検出し,これを画像で表示して脳血流量を測定する。
    (エ) MRS
 核磁気共鳴の信号を,分子内の位置によって核種の共鳴周波数に差が生じる特性を利用して分析することにより,生体内の核種だけでなく分子の分布を調べるものであり,脳において,同検査によりコリン複合体(Cho)のクレアチン等の複合体(Cr)との比率が上昇していることが判明すれば,細胞障害の膜変化に起因するコリン複合体が形成されている可能性がある。
ーーーーー
タイトル
お名前
email
ご感想
ご確認 上記内容で送信する(要チェック


 


   ホーム > 人身損害(交通事故など) > 高次脳機能障害 > 高次脳機能障害についての知見 H18. 5.26 札幌高裁判決から(2/3)